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―― 第一章 ――
【007】恨む対象
しおりを挟む「その件は、旅に出るまで僕は知らなかった」
「オニキス。多分ルイは嘘は言ってないと俺は思うぞ」
「――フラン。だけど俺は、誰を恨めばいい?」
どうやらルイというのが神官で、フランというのが魔術師らしい。今回は、お姫様や聖女はいないんだなぁと考える。しかしそれにしても、泣きそうになっている勇者を見ていると可哀想になってくる。
「誰も、恨まなくていいんじゃないかな? どうしても恨まなきゃやってられないなら、僕のことを恨んでいいよ?」
おずおずと声をかけると、三人とロビンの視線が僕に集中した。なんだか恥ずかしい。
「……魔王様は、優しすぎます」
「そんなことないよ、ロビン」
「何回勇者に倒されれば気が済むのですか! 心配するこちらの身にもなって下さい」
「は? お前、何回も倒されてるのか?」
魔術師のフランが、目を見開いた。呆気にとられた顔をしている。
「え? ああ、ちょっと。ほら、よく勇者って召喚されるし」
「じゃあ僕達がしてきた事って……」
「普通にただの虐殺です」
神官のルイに対して、淡々とロビンが言う。
僕はなんだかいたたまれない気持ちになってきたので、パンパンと二回手を叩いた。
「よし! 仕切り直そう! 僕を倒して、帰還しなよ!」
「何も悪いことをしてない奴を、倒せるわけがないだろう」
これまで絶対悪として扱われてきた僕は、勇者オニキスの言葉に首を傾げた。
「存在することが悪なんだよ」
「そんなはずがない」
勇者はそう言うと、神官と魔術師に振り返った。
「全てを信じた訳じゃない。ただ俺は、もう少し魔王と、きちんと話しがしたい」
「お前が決めたんなら、それで良いんじゃないのか? これまでだって俺もルイも、ずっとお前についてきただろ」
頷く二人を見て、僕は思わず眉を顰めた。
「いや、サクッと倒そうよ。僕コミュ障だから、会話なんて続かないし」
すると沈黙した勇者パーティの面々が、何故なのか残念なモノを見るように僕へと視線を向けた。隣ではロビンが溜息をついている。僕と会話が続く相手なんて、それこそロビンを除けば、置田だけだ、いまだかつて。他はみんな――……もういない。
「そもそも僕ひきこもりだから、魔王城からほとんど出ないし。街案内も出来ないし」
「……話をさせてくれ」
「お断りします!」
勇者の言葉に僕はブンブンと首を振った。
「話すぞ」
「え」
「俺は、お前と話しがしたいんだ!」
「いやぁそんなことを言われても……」
「魔王様、勇者もこう言っていることですし、少し話してみたらどうですか?」
ロビンの言葉に、助け船を出して欲しかったのにと思いながら、僕は眉を顰めた。
「魔術師様と聖職者様は、私目が接客いたしますので」
「え、え」
「行こう」
僕は気がつくと勇者に腕を引かれていた。
「ちょっと待ってよ――」
「待たない」
こうして何故なのか、僕は勇者オニキスとともに、城下町へと出かけることになったのだった。
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