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―― 第一章:時夜見鶏 ――
SIDE:時夜見鶏(1)
しおりを挟む――聖龍暦:7251年(開始)
あー、午後から会談だっけ。怠いな。帰りたい。寝たい。
俺、もう二日ぐらい≪邪魔獣モンスター≫退治でほとんど寝てないし。
過労死しちゃうよ。
「……?」
あれ、珍しいな。
白い子犬がいる――可愛いなぁ。
ん、誰か近寄った。
えええ、俺嫌われてるし、何か怖がられてるし、これじゃあ近づけないよ。あの誰かも怖がらせるだろうし。あーあ、犬に触りたかったな。
だけど、誰だろう。
見たこと無いなぁ。
黒髪で、空色の瞳。
うーん、子犬に手を差し出して――お、笑った。こっちも可愛いなぁ。
さて、そろそろ、帰るか。
暫く俺は歩いた。
すると、なんだか暦猫が、深刻そうな表情でやってきた。
えええ、俺、なんかしたかな?
「時夜見、少し宜しいですか?」
宜しいですかって、もう俺のこと引き留めてるじゃん。怖い怖い怖い。
あんまり宜しくない。俺、逃げたい。帰りたい。帰って本当、寝たい。
けど……そんな事言う度胸無いし。
「なんだ」
本当、何の用ですか? 怒らないで……説教も止めて……神様お願いします、って、あ、俺が神様だった。まずい俺、最近、人間界に毒されてる。
――あれ? 何か今、暦猫が溜息ついたぞ。
すごい気迫で俺を見てる。本当、怖いなぁ。冷や汗出そう。
「今夜の話し合いで、チョウチョウをどうするか決定します。どうしますか?」
ん? あれ、怒ってない。怒ってない!
良かったぁ。やっばい、今度は脱力しそう。
それにしても――わざわざ、会談して、蝶々をどうするか、って話し合うの?
何の話しだろう。博物館(?)でも作るのかな。蝶々の展示する感じで。
また、どうして?
あ、また暦猫の顔が怖くなったぞ。とりあえずコレ、答えた方が良いよね。
蝶々なんだから……そりゃ、展示するとしたら、可哀想だけど、羽を虫ピンで留めるんだよな。で、平べったいビロード張りの箱か何かに、打ち付ける。俺だったら、そんな事せずに、逃がしてあげるんだけどな、虫。
だけど暦猫、何でこんなに真剣なんだろう? あれかな、館長になるのかな? いやー、暦猫もきっと、館長となれば、緊張するんだろう。ちょっと笑っちゃうけど。
「蝶々は長針で刺して張り付けるものだろ? 形が崩れないよう、平らな場所にでもな。そして眺める。しばらくの間だな」
俺は自信を持てという気持ちでそう告げた。
すると、暦猫が眉を顰めた。
あれぇ、そんなに不安なのか?
こいつでも、不安になるんだ。俺、初めて見たかも知れない。
「しばらくとは……どのくらいの間でしょうか?」
どのくらいの間? え? 館内を回る時間? だよな、まさか蝶々を刺しとく時間じゃないよな。一瞬で刺し終わるだろうし。んー、まぁ、一・二時間だろう、広くても。余裕を見て、二時間って所か。
「――二時間くらいだろう」
「分かりました」
俺の言葉に頷いて、暦猫は帰って行った。
ふぅ。
何か気疲れした。早く会談して、帰りたい。それに眠りたい。
そんなこんなで夜になって、会談が始まった。
やばい、俺今、目、見開いたかも。
そこには、先ほど庭で見かけた青年がいたのだ。あ、笑ってる。
俺は犬のことを思いだした。可愛いなぁ、あの犬。犬と戯れてた時も、笑顔だったな、この人。うん、笑顔が似合うよ、絶対。
「あちらが、空巻朝蝶です」
ぼそりと隣で暦猫が言った。瞬時に背筋が寒くなった俺。思わず顔が歪んだ。
え、嘘? あの、俺の師団を見かける度に、大量虐殺(まぁ、不老不死みたいなもんの神様だから、復活するけどさ)してる、怖い奴か。
えええ。嘘? 嘘だろ? 吃驚だよ俺。本当、人は見かけによらないんだなぁ。けど、犬と遊んでた時は、そんな悪い人には見えなかったし、やっぱり仕事でやってるんだろうな。やばい、思い出し笑いしちゃった。犬、可愛かったなぁ。
「……そうか」
「そんなに怖い顔で見ないで下さい」
暦猫が、俺を一瞥して言った。悪いけど、怖いんだもん。しょうがないじゃん! だって、拷問して、爪剥いだりとか、するらしいよ? 俺、スプラッタ、本当無理!
そんなこんなで、空巻朝蝶が俺の正面に座った。
後ろにはこれまた、今度は見るからにしてなんか怖い人が二人もいるよ。うう、俺、帰りたい。本当、帰りたい!
隣で暦猫が何か言ってるけど、さっぱり頭に入ってこないくらい怖い。助けて、誰か。
「――と言うことで通達したとおり、一対一で遭遇した場合は、双方が相手を追いかけ、捕まえた側が一つ行動を起こすことになりました。まずはそちらの条件を」
暦猫の言葉が終わった。こいつ、本当話しが長いよな。今日の午後は比較的短くて良かったけど。つぅか要点だけ話してくれればいいのに。
――それにしても、追いかけて捕まえる?
俺と、あの人が? 拷問されちゃうよ、俺! なんで、怖い人と俺、一対一で、鬼ごっこしなきゃならないの? え? まぁ、俺は夜系の神で、向こうは朝系の神様だし、追いかけっこ、常にしてると言えば、してるんだよね、空模様的に。いや空模様じゃ、天気か。
「――捕まえたら一つ、僕の頼みを聞いて貰います。勿論、殺しはしません」
やっぱり、恐ろしい。何、何? 殺しはしませんって、何? え?
しかも……頼みを聞く? どんな?
「分かりました。良いでしょう」
暦猫――!! なんで、なんで同意!? 嫌、俺全然分からないよ? しかも、良くない!
殺されるとか、不老不死的な俺でも、絶対嫌だよ! 痛いよ、きっと!
「そちらは?」
あ、なんか、また空巻朝蝶笑った。笑顔は可愛いのに、俺はどうして、背筋が寒くなってるんだろう。鳥肌立っちゃったよ。まぁ俺、鶏だけどさ。長袖着てて良かった。
「こちらは――刺して磔にし、石壁などに貴方を拘束し、二時間ほど眺めるなど致しましょう」
暦猫の声で、俺は息を飲んだ。でも、周囲にばれないように頑張って隠した。
チョウチョウって、朝蝶? え? この人?
俺、この人の事……張り付けるの!? 嘘だろ!? 可哀想だよ。
しかも石壁って何? 俺、この人を石の壁に、張り付けるの? えええ。しかも、二時間、眺めるの? 無理、ヤだ。 よし、断ろう。
そう思って、俺は暦猫を見た。
――うわぁ、すごい怖い笑顔で俺を見てるんですけど……!
これ、断りづらい。だけど、俺は嫌だ。やりたくない。
何て断れば良いんだろう。勇気を出せ、俺!
「ああ」無理!
と、続けようとした俺の言葉を遮るように、暦猫が言った。
「決まりですね」
決まっちゃったよ! 嘘ー! えー!?
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