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―― 序:周囲に見えた現実 ――
SIDE:周囲に見えた現実(4)
しおりを挟む――聖龍暦:9500年(二千二百四十九年後)
「何を考えているんだ」
ついに、聖龍が激怒した。
この間までに、和解を模索し空神率いる第二師団と時夜見鶏率いる第七師団は、合同で遺跡の調査を行った。その時には、堂々と宿舎で、時夜見鶏は朝蝶を犯したのだという。
「何故、こんな事をするのですか?」
「……」
「僕は、僕は、」
「……」
「っ」
空巻朝蝶が涙する。だが時夜見鶏は何も言わない。
ただ不機嫌そうな顔をしているだけだったそうだ。
その他にも、所構わず、見かける度に襲っているそうだった。
「もう……止めて下さい」
「……俺は」
「……苦しい、っ、どうして――」
「……」
「こんな、こんな風に体を無理に暴かれて、っ」
「……」
それまでは時夜見鶏を信頼していた師団の部下達ですら、時夜見鶏を蔑むようになる。
「嫌、嫌だ、ッ、止め」
「……」
「ああっ、もう……嫌だッ」
「……そうか」
聖龍が声を荒ぶらせたのは、ついに聖龍本人が時夜見が朝蝶を押し倒している現場を目撃した時だった。それは、時夜見鶏が、聖龍と朝蝶が互いの想いを交わすように見つめ合い会話しているのを見た翌日のことだ。
「以後二度と朝蝶には近づくな」
その声に、この世界を統べる王を相手にしているにもかかわらず、時夜見鶏は実に不機嫌そうな顔をしたのだという。しかし何も言わずに、ただいつもの通り、相手を見据えるだけだったそうだ。
だがその後も、時夜見鶏の愚行は止まらなかった。
執拗に朝蝶を追いかけ続けた。
聖龍の言葉など意に介さなかったように。この世界で、聖龍の次に生まれた時夜見鶏は、世界を壊しかねない力を持つ聖龍が普段はその力を抑えているため、武力で右に出る者は居ないとされていたから、余裕があったのかも知れない。思い上がりだ。
ある日聖龍は、時夜見鶏を<鎮魂歌>から追放した。
それでも時夜見鶏は、朝蝶を追いかけ続けた。
***
――聖龍暦:14500年(一億四千二百四十九年後)
この頃には、朝蝶に媚薬を再び用い、己から離れられない体にしたのだという。
朝蝶の涙と苦しみは、いかほどのものだったのか。
誰もが、想像したくもなかった。
***
――聖龍暦:19500年(一億九千二百四十九年後)
ついに時夜見鶏が、朝蝶を無理に孕ませた。
苦しんだ朝蝶は、時夜見鶏を<捕食>したが、嘲笑うように頬を持ち上げ、時夜見は二人の新神を産ませたのだ。そして、時夜見鶏は、一人だけ連れて姿を消した。
無理に産まされたとはいえ、それでも己の子は可愛い。
空族の屋敷へと戻り、朝蝶はその子を育てた。
***
――聖龍暦:19700年(一億九千七百四十九年後)
時夜見鶏と空巻朝蝶が再会した。
再び、時夜見鶏は朝蝶を追いかけ始めた。
最早逃れることは出来ず、朝蝶は時夜見鶏のもとへと下った。
今では二人、新しい二神を手元に置き、暮らしているのだとか。
毎夜痛めつけられる朝蝶の絶望と、時夜見鶏の執着心や残忍さに、神界の者は誰でも恐怖している。皆、時夜見鶏を軽蔑しながら。
――これが、周囲に見えた現実だった。
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