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【9】(☆)

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 ギルドホームに戻ると、ミスカの姿が無かった。代わりに、【伝言板】にアラートがあった。これは同じギルドに所属しているメンバーで、遠距離でも話ができるトーク機能である。LINEといったトークアプリと同じで、既読チェックができたり、リアルタイムでチャットが可能だ。音声通信も可能である。これは、フレンド登録をしている場合も使用可能だ。コミニケーション機能は、他には【手紙】【チャット】【掲示板】が存在する。手紙は、アイテムを付けて送ったりできる。掲示板はパーティの募集などで使う。【チャット】に関しては、街などで【叫ぶ】などを用いて、実際に声で話すように使用できる。その場合は、視界の一番下にも、文字で活字が流れ、その場にいる誰にでも見えるようになる。ミスカはこの中の、伝言板に、『街を見てくる』と残していた。

「行動が早いな、相変わらず」

 リュートはそう言いながら、テーブルの上にリンゴのカゴを置いた。そしてひとつ手に取り、中に二・三度放り投げながら、俺を一瞥した。

「生産の調理もカンストだったか?」
「う、うん」
「お前の料理、食べてみてぇな。作ってくれよ」

 そう口にしてリュートが投げたリンゴを、慌てて俺は受け止めた。

 こうしてキッチンスペースに移動し、俺は包丁アイテムを出現させた。VRでは、実はまだ一度も生産をしたことがない。後でやろうと思って、栽培で材料を収集している段階だった。まず包丁を持ってみて、その重さに驚いた。まるで本物だ。

 ――現実において、俺は宅配サービスされる栄養補給食や外食、店買で生きてきたから、料理なんて全然やった事がない。それこそ子供の頃の調理実習以来だった。

 洗ったリンゴの皮に、おずおずと刃を滑らせる。ザクッと分厚く果肉ごと皮が抉れた。MMOの生産では、タッチしてボタンに触れるだけだったから、こんなことは予想外だ。狼狽えながら刃を進める。ザク、ザクと、凸凹に皮が少し向けた。

「見てられねぇよ」

 その時、呆れと苦笑が混じった吐息の気配がして、俺の手からリュートがリンゴと包丁を奪った。左手の人差し指でリンゴを器用にクルクル回してから、リュートが包丁を持ち直す。

「料理、できないんだな。なるほど、生産レベルが高くても、VR経験も調理経験も無ければダメ、と。勉強になったわ」

 器用に細く、リュートが皮をむき始めた。リンゴを回転させながら、滑らかに皮だけを上手くむいている。すごい。

「リュートは料理ができるのか……」
「このくらいはな。なお、生産もカンストだ。ただ、最近はやってなかったから、素材があんまり無ぇんだよな」
「素材なら、俺、少しなら持ってる」
「おぅ、持ちつ持たれつで行こう。俺が振舞ってやるから、お前は出せ」

 皮をむき終えると、リンゴを四等分にして、リュートが取り出した皿にのせた。
 そしてすぐに、他のリンゴに取り掛かり、リンゴジュースをまず量産した。
 最後にジャムの製作に取り掛かる。茹でているリンゴからは、甘酸っぱい香りが広がっていて、俺は空腹を覚えた。

「後は少し火にかけておけば良い」

 リュートが呟くように言いながら、椅子を引いた。俺も手招きされて隣に座ろうとした。だが、その手前で手首を掴まれ、体勢を崩した所を抱きとめられた。そのまま膝の上に乗せられ、俺はリュートの太ももを椅子がわりにする事になった。

「大丈夫だからな」

 後ろから俺を抱きしめ、リュートが耳元で囁いた。そのまま吐息を吹きかけられる。ピクンと慣れきっている俺の体は跳ねた。後ろから首元のリボンを解かれる。今日の俺のアバターは、リボンとボタンで胸元までを留める仕様のロングTシャツだ。腰のところも紐で結んでいる。ボトムスもそうだ。リュートは、俺の耳の後ろ側を撫でると、それから体中に手で触れて、一つ一つリボンをほどいていく。俺の服はどんどん緩くなっていく。

「ぁ……」

 襟元から手が忍び込んできて、俺の胸の突起を優しくつまんだ。左手では、直接的に陰茎を握られる。それらをゆるゆると動かされると、息が上がった。

「ン」

 それから唇が降ってきた。口腔を貪られながら、時々強く吸われるたびに、俺の体は跳ねた。優しくて甘い。何度も舌を味わうようにリュートは俺にキスをしながら、全身を指先でくすぐってきた。俺の先走りの液を指に絡め、それからそっと菊門に触れる。

「あ……っ……」

 中に、一本、二本と、リュートの指が侵入してくる。いつもよりもゆっくりと中へとは言ってきて、その後それらは揃えられ、小刻みに震え始めた。

「ぁ、ぁ、あ」

 気持ちの良い場所に刺激が響いてくる。ギュッと俺はリュートの服にしがみついた。目を閉じ、快楽を耐えようと試みる。いつもはこの後、気が狂いそうになる快楽が待ち構えている。怖いほどの強さだ。だが――この時のリュートの手は本当に優しくて、俺の好きなことだけをしてくれた。

「あ、ああっ」

 指先で前立腺を刺激され、同時に前を撫でられ、俺はそのまま穏やかに果てた。
 肩で息をしていると、俺をさらに優しくリュートが抱きしめた。

「俺が守ってやる。だから何も心配するなよ」

 その声に、俺はじっとリュートを見た。不意の言葉と甘い優しさに、胸が疼いた。俺はこれまでの人生において、守られた事はない。ゲームで人を守ったことは数しれずだけれど、現実を含めて、いつも一人だった。

「リュート……」

 何故なのか感極まって俺は涙ぐみそうになった。

「バジル。お前は、安心して俺のそばにいれば良い。いいや、俺がバジルのそばにいたい。だって俺は――」

 扉が開いたのはその時の事だった。

「焦げてるぞ、何かが。ギルドホームを燃やす気か?」

 入ってきたのはミスカだった。するとリュートが眉間にシワを寄せて、俺をさらに強く抱きしめた。

「おい! 邪魔をすんなよ! 口説いてんだから! それにそれはわざと少し焦がす技法なんだよ! 生産レシピのカンスト品の一種だ!」
「――知っている。単純に帰ってきたら視界に入って邪魔してやろうと思っただけだ」
「な」
「バジルは渡さない」
「ちょ、お前な!」
「おいで、バジル」

 ミスカはそう言うと、俺の腕を引っ張り、リュートの上から抱き上げようとした。だがすぐにリュートが俺を奪い返した。

 その後二人は俺をはさんで言い合いを始めた。からかわれていると理解した俺は、ただ静かにジャムの完成を待った。
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