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【7】
しおりを挟む――シャムロックか。幸運を運んでくれるらしい四つ葉。だけど、俺は決して幸運ではないだろう。自己憐憫する気はないが、誰かに愛されたかったし、そばにいて欲しかった。
「……」
気づくとベッドに寝ていた俺は、起き上がってから、静かに涙をこぼした。
「っ……」
涙が止まらない。こんなの、MMO時代の方がマシかもしれない。そう思いながら、声を殺して俺は涙した。すると、気づいたリュートとミスカが、驚いたように息を飲んだ。
「お、おい?」
「待ってくれ、バジル。別に俺もリュートも、今撮ったものを流すつもりなんかないぞ? 今度羞恥プレイで見せながらヤろうと思ってただけで」
「いや待てミスカ、それ、慰めの言葉としては弱い――お、おい? 泣くな、待ってくれ、お前の泣き顔はただでさえ犯罪なんだ。そんな人生が終わりみたいな、絶望感あふれる顔はやめてくれ」
「ああ。こちらまで暗くなる」
「……っ……」
「い、いや、ほら、ほ、ほら? 暗くなる分には別にいいだろ、ミスカ! と、とにかく、泣き止んでくれ!」
「リュート、お前は動揺のしすぎだ。虐めたのはリュートだろう」
「お前だって同罪だろ?」
「俺は割り切ってるから、別に泣かれてもそこまで衝撃は受けない」
「はぁ!? 俺だって割り切ってるっつの!」
「どうだかな」
二人の声を聞きながら、俺はシーツで涙を拭いた。溢れてくる。止まらない。
――大地が揺れたのは、その時のことだった。
「え?」
俺は両腕で体を守った。するとミスカが駆け寄ってきて、俺の体を抱き寄せた。上から木の屋根が降ってくる。それをリュートが双剣で粉砕した。そして彼もまた俺を庇うように腕を伸ばした。
「なんだ? 地震なんてVRには無いよな?」
「ああ、リュート。一般的に地面が揺れる場合は、モンスターが近くに居る場合だけだ。仕様だ。そしてこの街にモンスターは出現しない」
「念のため、ログアウトした方がいいな――バジル、早く逃げるぞ」
「う、うん」
こうして俺は、視線操作でメニューを開き、ログアウトボタンを――選択しようとして固まった。そこには、ログアウトボタンが無かったからだ。
空中に巨大なウィンドウが開いたのは、ほぼ同時のことだった。
『デス・ゲームの始まりデース』
直後、嘘みたいなそんな声が響いてきた。意味が分からず、俺は首を傾げる。
だが二人は意味が分かったようで息を飲んだ。
「おい、ミスカ。デス・ゲームって、Web小説によくあるアレか?」
「死ぬまででられません、死んだあとの行き先は天国です、か? 少なくとも俺は、デス・ゲームと聞いたらそれしか思いつかない」
口調こそ軽いというのに、二人の表情はとても険しかった。
――Web小説?
俺は読んだことがないので、よく分からない。ログアウトボタンが無いのは、バグだろうか? 一人で静かに考える。
「バジル、今後、俺かミスカのそばを絶対に離れるなよ」
「リュート、気持ちは分かるが、俺が思うにバジルはそれなりに戦えるだろう。この世界では俺達についで第三位なんだからな」
「え」
その言葉に俺は驚いた。
そして、改めてMMOランキングを振り返った。
一位――リュート、忍者。二位――ミスカ、大剣士。そして三位が俺だ。
俺はこのゲームを始めてから、リュートとミスカとバジルという名前をそれぞれ十人以上見ているため、全く気付かなかった……。高レベルと同じ名前は、流行するのである。
「って言ったって、269だぞ? 俺とお前は、360だ」
「まぁな。だが、バジルは引退していなければ余裕で360だっただろう?」
「でも引退していたし、元々VRゲーム経験者だった俺とミスカとは違う」
「過保護すぎる」
「ギルマスとして当然だ」
二人のやりとりに、俺はおずおずと声を挟んだ。
「俺は大丈夫だ。迷惑をかけないように、自分のホームに行く」
「「ダメだ」」
すると二人が声を揃えた。
「死亡フラグを立てるな。お前は一級フラグ建築士だったのか?」
「全くだ。もう良い分かった。俺とリュートでバジルを守ろう。心臓に悪い」
「守る? 何からだ? モンスターが街に出たのか?」
俺は空中に浮かんでいるウィンドウを一瞥した。そこには現在街の様子が出ているのだ。しかし、映っているのは、いつもと同じ光景だった。強いて言うなら、人々が立ち止まり、各地に展開しているウィンドウを見て、騒然としているくらいのものである。モンスターの姿はない。
「おそらくだが、俺達はこれから、ゲーム内部で死ぬと、蘇生することがなくなる」
「え?」
リュートの言葉に、俺は目を見開いた。
「誰かが外部からログアウトボタンを消去して、リュートが言う通りゲームの内容を変更したんだ。おそらくVRの根幹に手を入れているから、今後は痛みなどもリアルになる。性行為以外の感覚もリアルになったはずだ。結果、ショック死に至る」
「なんで二人にはそんなことが分かるんだ?」
「俺はWeb小説で読んだ」
「俺はWeb小説を書いている。それをリュートに読ませている」
俺には未知の世界である。
――兎角こうして、俺は、ログアウト不可のデス・ゲームの世界に巻き込まれることになったのである。二人がいった事とほぼ同じ内容が、すぐにウィンドウに字幕で流れたのだった。
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