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―― 序章Ⅳ:戻った絆 ――

【五十二】僕の口から出る話題

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 以後、山縣はきちんと事件に向き合うようになった。

 僕を置いていくこともしない。それは僕を常にそばにおいて守りたいという趣旨のようだったし、事件も凶悪なものは引き受けないのだが、僕にとっては十分すぎる。

 なにより、事件を解決している時の山縣は、本当に生き生きとしている。
 それは探偵才能児の由来となる本質だ。
 探偵とは、事件があると謎を解きたくなる生き物らしい。

 そんなこんなで、七月末が訪れた。
 僕はこの日、ケーキを作っていた。すると山縣が、僕の後ろから覗き込んできた。

「これは?」
「今年こそ、祝わせてよ。昔、約束したよね?」

 誕生日のケーキを見据えてから、山縣が僕の後ろで、嬉しそうに吐息した。

 その日は、山縣のリクエストで、肉じゃがを作った。一番最初に出会った日は、食べる気が起きないと言っていたくせに、今では大好物らしい。なお、誕生日のプレゼントは、僕はネクタイピンをプレゼントした。

 翌週、僕は天草クリニックを受診した。金島から戻ってきてすぐにも一度診察を受けたのだが、本日は定期受診の日である。

「――という感じで、山縣が頑張ってるんです」
「そうなんだ。でも僕としては、山縣くんの活躍ぶりではなくて、朝倉くんの具合が気になるんだけどね?」

 呆れたような顔をされて、僕は思わず気恥ずかしくなった。
 気づくと僕の口からは、山縣の話題しか出なくなってしまっていた。

 それは、僕が記憶を取り戻した事を告げた後の、家族からも指摘された。先日妹と通話をしていたら、「お兄様、山縣さんの話題ばっかりね」とクスクスと笑われたのだったりする。その時僕は、スマホ越しに苦笑したものである。


 ――その後。

 山縣は、いくつもの事件を解決していった。
 それは、僕が犯罪・事件マッチングアプリで見つけてきた依頼もあれば、青波警視正からの依頼もあった。本日も、青波さんが来ている。

「いやぁ、すごねぇ。さすがだな、山縣。あと、朝倉くんの助手力。山縣がやる気を出すには、やっぱり朝倉くんは必要不可欠ってことだな。探偵は助手がいないと生きられないもんな」

 その言葉を聞きながら、僕はコーヒーを淹れていた。
 なんだか照れくさい。

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