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―― 序章Ⅲ:喪失恐怖(SIDE:山縣) ――

【四十九】決意

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 処置には、しばらくの時を要し、既に季節は秋だ。もうすぐ、朝倉の誕生日になる。この日、山縣は、マジックミラー越しに、朝倉の病室を見ていた。

『あれ?』

 その時、朝倉が声を出した。山縣が目を見開く。

『僕、教室で成績表を見てたのに……ここは?』
『天草クリニックだよ。僕は担当医の天草。君は、とある事件に巻き込まれて、記憶を失っているんだよ。ただその事件は、極秘の事件だから、詳細は君本人にも伝えられないんだけどね』

 困惑したような顔をしている朝倉を見て、山縣は思わず泣きそうになった。口元には笑みを浮かべている。記憶はないようだが、朝倉に表情が戻り、その瞳に光が戻ったことが、どうしようもなく嬉しかった。

 ――その後、目に瞠る回復を見せた朝倉は、短期の療養を経て、留学する事になった。

 朝倉が乗るという飛行機を、山縣は見に行った。

「俺は、朝倉がいないと、ダメなんだなぁ」

 そう呟いて苦笑する。間違いなく、朝倉は運命の相手だった。それが探偵と助手の絆なのだと今では深く理解している。理解させられている。

「いいや、多分それだけじゃない」

 一人呟き、山縣が苦笑する。自分側は、少なくとも、朝倉が仮に己の助手でなかったとしても、一人の人間として、友人として、大切な相手だと感じている。もうそれを、山縣はよく理解していた。

 だが、だからこそ探偵と助手としても運命の関係でよかったと感じる。

 どこにいても、お互いがお互いだけを求める関係である以上、きっとまた、再会できるだろうと分かるからだ。

 留学中は、顔をあわせる事は出来ない。
 連絡先も知らない。

 けれどいつか再会したいと、山縣はそう願いながら、飛行機が消えていった空をずっと見上げていた。

「再会したら、もう絶対に危険な目には遭わせない」

 決意するように、山縣が呟く。
 ――そのためには、どうすればいいか?
 明瞭だった。事件に関わらなければいい。
 そもそも自分が朝倉に接触しなければ、朝倉が巻き込まれる事はないのだろうが、それは無理だと、もうよく山縣は理解していた。


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