上 下
10 / 10

【十】

しおりを挟む

 このようにして二年目の日々は過ぎていき、ついに三年生になった。あと猶予は二年だ。ジャック様とアーネは順調に親しくなっている様子だが、まだ婚約破棄のような話は出ていない。ただ、困った事に、僕が嫉妬しているという噂が出回り始めた。実際嫉妬しているので、僕は困っている。だが命に関わるので、僕は噂の払しょくに努めた。そうこうしていると半年があっという間に経過した。

 噂の払しょくを手伝ってくれたのは、エドワーズ殿下だった。僕は日中、ジャック様といる時間よりも、エドワーズ殿下と過ごす方が多い。そのくらい対処しなければならない噂の量が多い。この日も疲れ切って寮に戻った。すると不機嫌そうな顔のジャック様が、長い脚を組んでソファに座っていた。

「フェルナ」
「はい」
「最近、エドワーズと親しいらしいな」
「親しいですね」
「毎日昼食を一緒に食べているというのは事実か?」
「ええ」
「……お前は誰の婚約者なんだ?」
「ジャックロフト王太子殿下の婚約者ですよ」
「では明日からは俺と食事を」
「無理です。エドワーズ殿下と約束していますし」
「……なんでエドワーズなんだよ。俺の何がだめなんだ?」

 ジャック様の声が、低くなった。疲れ切っていた僕は、顔を上げ――そして息を飲んだ。あんまりにもジャック様の顔が真剣だったからだ。それも、怒っている顔だ。

「なにがあっても、俺は絶対に婚約破棄には応じない」
「……ええと、その……でもジャックロフト王太子殿下は、だから……最近親しい方がいるのでは?」
「お前とエドワーズのようにという意味か?」
「僕とエドワーズ殿下のようにとは?」

 気配に飲まれていると、立ち上がったジャック様が歩み寄ってきて、正面から僕を抱きしめた。

「誰にも渡すつもりはない」
「なにを?」
「お前を」
「僕を……?」
「もう我慢できない。お前の気持ちが俺に定まってからと考えていたが、待てない。好きだフェルナ。俺はお前のことがずっと好きだったし今も好きだ。何度も惚れ直した。最高にお前が好きだ」
「え!?」

 僕はその言葉に、純粋に驚いた。嬉しすぎて顔が融解しかかったので、俯いてごまかす。

「だから早くお前も、俺を好きになってくれ」
「!!」

 既に僕もジャック様の事が好きだから、心拍数が大変な事になってしまった。

「ジャック様……」
「なんだ? 久しぶりにその名で呼んでくれたな」
「……その、嬉しいです。本当に嬉しいです」
「フェルナ?」
「僕も好きです。お慕いしております!」

 僕も勢いあまって気持ちを伝えた。すると僕を抱きしめていたジャック様の腕に、変な力がこもった。

「もう一度言ってくれ」
「好きです。ジャック様こそもっと言ってください」
「フェルナが好きだ。愛している」

 その後僕達は顔を見合わせて、そしてどちらともなく満面の笑みを浮かべた。
 翌日からは、僕はエドワーズ殿下とジャック様と三人で食事をし、噂の払しょくをしていたという説明もきちんと行った。するとジャック様が難しい顔をした。

「俺のせいで嫌な思いをさせた事をまず謝らせてくれ」
「別にジャック様のせいでは……いや、どうかなぁ」
「俺は今後、もっとフェルナを愛している事を前面に打ち出していく」
「それはやめましょう。僕が恥ずかしいです」

 そんなやりとりをした。
 結果――ジャック様は有言実行の人だった。噂はすぐに消えてしまった。
 このようにして三年目の日々は忙しなく過ぎ、四年目に突入した。
 もうすぐ、僕とジャック様の卒業パーティが迫ってくる。ただ今のところ、婚約破棄される気配もないし、断罪される兆候もない。それでも僕は、語学の習得は怠らなかった。ただ……ここまで好きになってしまったら、もう結果が追放だったら、僕は立ち直れないだろうから、勉強しなくてもいいかもしれない。

 こうして、三月。
 その夜、卒業パーティが行われる事となった。僕とジャック様が並んで入場すると、人々の視線が集まってきた。やはりジャック様の隣にいると視線の量が多い。

「フェルナ?」
「ああ、いえ……みんながジャック様を見てるなぁって思って」
「どちらかといえばお前を見ているんじゃないか?」
「嫉妬してるって噂、まだあるんです?」
「違う。見惚れているんだろう。今日もフェルナは綺麗だからな。外見も、中身も」
「それはちょっと医官に見てもらった方がいい案件では?」
「雰囲気をぶち壊さないでくれ。さぁ行くぞ」

 幸い、この夜僕が婚約破棄される事はなかったし、断罪もされなかった。
 その後も僕らの月日は巡っていったが、僕達の関係は順調で、じわりじわりと好きの量も増えていった。喧嘩をする事もあるが、僕は隣に居られて幸せである。





(終)


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

めれんげ
2024.01.13 めれんげ

とっても面白かったです!
主人公可愛い!
他視点を書く予定はございますか?

猫宮乾
2024.01.14 猫宮乾

ご覧下さりありがとうございます!!
私も主人公気に入っているため嬉しいです(〃'▽'〃)

実は他サイトで短編でupしていて、そちら連載形式に変更できないので、他視点どうしようかなぁ、とちょっと思ったことがあります、それでアルファ様なら、今ご感想いただいて、書ける!! と、ふと思いました笑
もし書いた際は、ご覧頂けましたら嬉しいです!

解除

あなたにおすすめの小説

【完結/R18】俺が不幸なのは陛下の溺愛が過ぎるせいです?

柚鷹けせら
BL
気付いた時には皆から嫌われて独りぼっちになっていた。 弟に突き飛ばされて死んだ、――と思った次の瞬間、俺は何故か陛下と呼ばれる男に抱き締められていた。 「ようやく戻って来たな」と満足そうな陛下。 いや、でも待って欲しい。……俺は誰だ?? 受けを溺愛するストーカー気質な攻めと、記憶が繋がっていない受けの、えっちが世界を救う短編です(全四回)。 ※特に内容は無いので頭を空っぽにして読んで頂ければ幸いです。 ※連載中作品のえちぃシーンを書く練習でした。その供養です。完結済み。

ハーレムルートと王子ルートが初めから閉じていて「まーじーかー!」と言っている神子は私と王子を見てハアハアしている

ネコフク
BL
ルカソール王子と私は太陽神と月の女神の加護を受け婚約しており将来伴侶となる事が産まれた時から決められている。学園に通っている今、新しく『花の神子』となったユーリカ様が転入してきたのだがルカソール王子が私を溺愛するのを見て早口で「ハーレムルートとルカソールルートが閉じられてる⁉まーじーかー!」と言っている。ハーレムルート・・・シュジンコウ・・・フジョシ・・・何の事でしょう?おやユーリカ様、鼻息が荒いですが大丈夫ですか?☆3話で完結します。花の神子は女性ですが萌えを堪能しているだけです。

涙は流さないで

水場奨
BL
仕事をしようとドアを開けたら、婚約者が俺の天敵とイタしておるのですが……! もう俺のことは要らないんだよな?と思っていたのに、なんで追いかけてくるんですか!

婚約破棄に異議を唱えたら、王子殿下を抱くことになった件

雲丹はち
BL
双子の姉の替え玉として婚約者である王子殿下と1年間付き合ってきたエリック。 念願の婚約破棄を言い渡され、ようやっと自由を謳歌できると思っていたら、実は王子が叔父に体を狙われていることを知り……!?

年下との婚約が嫌で逃げたのに結局美味しく頂かれちゃった話

ネコフク
BL
当時10歳と婚約させられそうになり「8歳下のお子様と婚約なんて嫌すぎる」と家出して逃げた兎人のユキトは5年前から虎人のアヤから職場で求婚され続けている。断っても断ってもしつこいアヤが成人した途端、美味しくいただいいたゃう話。ストーリーなんてほぼないエロ話。一度致しちゃうと成長が早い虎人という独自設定を入れています。始めと後で体格差は逆転します。

王子様のご帰還です

小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。 平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。 そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。 何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!? 異世界転移 王子×王子・・・? こちらは個人サイトからの再録になります。 十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。

悪役令息はもう待たない

月岡夜宵
BL
突然の婚約破棄を言い渡されたエル。そこから彼の扱いは変化し――? ※かつて別名で公開していた作品になります。旧題「婚約破棄から始まるラブストーリー」

従兄弟の婚約者を寝取ったら、とあるルートに突入したのだが

Q.➽
BL
憎たらしい従兄弟の婚約者を寝盗り、一泡吹かせてやったと思ったら断罪劇が待っていた。 オイタが過ぎて父である王に謹慎を言い渡され、北の塔に押し込められ鬱屈した日々を過ごしていた筈なのに、気がつけば船の中に居た私。 そこに居た黒髪の美しい異国人の男に、「王子は死んだ、お前は奴隷だ」と言われ…。 ※この作品は、『そのシンデレラストーリー、謹んでご辞退申し上げます』のスピンオフであり、作中の登場人物・シュラバーツ第4王子を主人公とした物語です。 短いので、原作と並行してゆっくり進めます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。