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【十】
しおりを挟むこのようにして二年目の日々は過ぎていき、ついに三年生になった。あと猶予は二年だ。ジャック様とアーネは順調に親しくなっている様子だが、まだ婚約破棄のような話は出ていない。ただ、困った事に、僕が嫉妬しているという噂が出回り始めた。実際嫉妬しているので、僕は困っている。だが命に関わるので、僕は噂の払しょくに努めた。そうこうしていると半年があっという間に経過した。
噂の払しょくを手伝ってくれたのは、エドワーズ殿下だった。僕は日中、ジャック様といる時間よりも、エドワーズ殿下と過ごす方が多い。そのくらい対処しなければならない噂の量が多い。この日も疲れ切って寮に戻った。すると不機嫌そうな顔のジャック様が、長い脚を組んでソファに座っていた。
「フェルナ」
「はい」
「最近、エドワーズと親しいらしいな」
「親しいですね」
「毎日昼食を一緒に食べているというのは事実か?」
「ええ」
「……お前は誰の婚約者なんだ?」
「ジャックロフト王太子殿下の婚約者ですよ」
「では明日からは俺と食事を」
「無理です。エドワーズ殿下と約束していますし」
「……なんでエドワーズなんだよ。俺の何がだめなんだ?」
ジャック様の声が、低くなった。疲れ切っていた僕は、顔を上げ――そして息を飲んだ。あんまりにもジャック様の顔が真剣だったからだ。それも、怒っている顔だ。
「なにがあっても、俺は絶対に婚約破棄には応じない」
「……ええと、その……でもジャックロフト王太子殿下は、だから……最近親しい方がいるのでは?」
「お前とエドワーズのようにという意味か?」
「僕とエドワーズ殿下のようにとは?」
気配に飲まれていると、立ち上がったジャック様が歩み寄ってきて、正面から僕を抱きしめた。
「誰にも渡すつもりはない」
「なにを?」
「お前を」
「僕を……?」
「もう我慢できない。お前の気持ちが俺に定まってからと考えていたが、待てない。好きだフェルナ。俺はお前のことがずっと好きだったし今も好きだ。何度も惚れ直した。最高にお前が好きだ」
「え!?」
僕はその言葉に、純粋に驚いた。嬉しすぎて顔が融解しかかったので、俯いてごまかす。
「だから早くお前も、俺を好きになってくれ」
「!!」
既に僕もジャック様の事が好きだから、心拍数が大変な事になってしまった。
「ジャック様……」
「なんだ? 久しぶりにその名で呼んでくれたな」
「……その、嬉しいです。本当に嬉しいです」
「フェルナ?」
「僕も好きです。お慕いしております!」
僕も勢いあまって気持ちを伝えた。すると僕を抱きしめていたジャック様の腕に、変な力がこもった。
「もう一度言ってくれ」
「好きです。ジャック様こそもっと言ってください」
「フェルナが好きだ。愛している」
その後僕達は顔を見合わせて、そしてどちらともなく満面の笑みを浮かべた。
翌日からは、僕はエドワーズ殿下とジャック様と三人で食事をし、噂の払しょくをしていたという説明もきちんと行った。するとジャック様が難しい顔をした。
「俺のせいで嫌な思いをさせた事をまず謝らせてくれ」
「別にジャック様のせいでは……いや、どうかなぁ」
「俺は今後、もっとフェルナを愛している事を前面に打ち出していく」
「それはやめましょう。僕が恥ずかしいです」
そんなやりとりをした。
結果――ジャック様は有言実行の人だった。噂はすぐに消えてしまった。
このようにして三年目の日々は忙しなく過ぎ、四年目に突入した。
もうすぐ、僕とジャック様の卒業パーティが迫ってくる。ただ今のところ、婚約破棄される気配もないし、断罪される兆候もない。それでも僕は、語学の習得は怠らなかった。ただ……ここまで好きになってしまったら、もう結果が追放だったら、僕は立ち直れないだろうから、勉強しなくてもいいかもしれない。
こうして、三月。
その夜、卒業パーティが行われる事となった。僕とジャック様が並んで入場すると、人々の視線が集まってきた。やはりジャック様の隣にいると視線の量が多い。
「フェルナ?」
「ああ、いえ……みんながジャック様を見てるなぁって思って」
「どちらかといえばお前を見ているんじゃないか?」
「嫉妬してるって噂、まだあるんです?」
「違う。見惚れているんだろう。今日もフェルナは綺麗だからな。外見も、中身も」
「それはちょっと医官に見てもらった方がいい案件では?」
「雰囲気をぶち壊さないでくれ。さぁ行くぞ」
幸い、この夜僕が婚約破棄される事はなかったし、断罪もされなかった。
その後も僕らの月日は巡っていったが、僕達の関係は順調で、じわりじわりと好きの量も増えていった。喧嘩をする事もあるが、僕は隣に居られて幸せである。
(終)
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とっても面白かったです!
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ご覧下さりありがとうございます!!
私も主人公気に入っているため嬉しいです(〃'▽'〃)
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もし書いた際は、ご覧頂けましたら嬉しいです!