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【十五】

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 礼は真面目な話、天才だ!
 会話もできるし、これなら、どこにだって外交に連れて行ける。
 続いて、僕はトイレに、母はピアノの楽譜を取りに行く感じで、少し時間をずらして席を立ち、別の部屋で合流した。

「ありがとう、母さん」
「よかったわね、両思いで。まさかこの展開は予想していなかったけど。何よりあの子、かなり王族に向いていると思うの。逃してはダメよ」
「わかってるよ。僕も今日尚更確信したっていうか、それより両思いでしかも片思いされてた事実が嬉しすぎてどうしていいかわかんない」
「私が暴露した感じで何か言ったら許さないわよ。こっちにも計画があるんだから。これから立てるんですけれどね」
「とりあえず今日、帰りに送っていって、そのままプロポーズしてくる」
「頑張りなさい。失敗したら、もう一度、最初から完璧に計画を練って食事会よ。あの子が落ちるまで、繰り返しましょう」
「ありがとう」

 こうして王宮の職員から、手配しておいた婚約指輪を受け取り、それをポケットに入れて、僕は礼と車に乗った。

「はぁ、緊張した!」
「とてもそうは見えなかったけどね。王族に会う練習をしてたみたいに完璧だったよ」
「練習!? 練習方法なんかあるんですか!? こんなの、私と春ちゃんくらいしか、できない芸当ですよ! いきなり会っちゃうなんて!」
「――春香も今日の君みたいな話し方ができるの?」
「高校生の頃、柾仁さんのものまねをみんなでしたんです! 私が一番似てて、二番目が春ちゃんで、三番目は、殿下の知らない女の子です!」
「……どういう経緯でそんなことを? 君、女子高の出身だよね?」
「もしも柾仁さんのお后様のような高貴な方の奥様になった場合に備えての練習という特別秘密授業があって、高貴な方は柾仁さんしかしらなかったので、ものまね大会だと気づいた瞬間から、柾仁さんの顔をいっぱい思い出したんです!」
「そんな授業があったんだ」

 即廃止命令だそう。完全に、僕のお妃候補選びだったな、それ。今回はちょうど良かったけど、なんてこった。まぁ、付け焼刃で礼のレベルは無理だろうけどね。ニコニコ笑いながら、僕はそんなことを考えていた。

 こうして、雑談しながら、僕らは研究室へと戻った。
 そして合鍵で中に入った。マスターキーから勝手に作っておいたのである。
 礼は特にその事実には気づいていない。

 あとは、どうやってプロポーズするかだ。なんて言おうかな。

 簡易キッチンに立ったまま腕を付いて、頬杖をついた。

 僕が眺める前で、礼が荷物をしまっていく。
 そういえば今日は、久しぶりにたくさん話した。
 思えば最近、SEX三昧だった。僕のせいだけど。
 本当は、一緒にいられることや、話ができることだけでも、幸せなんだよね。
 ガス代にのったままの、鍋を見た。
 お味噌汁を最近作っていない。

「ねぇ、礼」
「なんですか? あ! 今日は、ごちそうさまでした!」
「――僕の作った味噌汁さ、本当に美味しかった?」
「え? はい! 私は、大好きです。今日食べたお料理も美味しかったけど、もっと好きです!」

 久方ぶりに、満面の笑みが僕に向いた。作り笑いじゃない。
 昔から知っているからよくわかる。僕が、好きな笑顔だ。

「――一生、僕が作ったお味噌汁、飲んでくれない? 毎朝一緒に」
「もちろん良いで――……え?」

 僕は、なぜなのか、笑顔じゃなく、かといって怖くもなく、ごく普通の表情で告げていた。ただし、指輪の箱を手に持って、蓋を開けておくことを忘れなかったのは偉い。味噌汁だけじゃ伝わらないからね。普通男女逆の古めかしいプロポーズだし。

「それってあの――……」

 礼が指輪と僕を何度か交互に見たあと、真っ赤になった。
 伝わっているらしい。

「あ、あの! 十二単って、重いんですか?」
「……そうらしいけど、軽量化に努めるよ」

 重いって言ったら絶対に断られると、僕は確信していた。
 礼はそういう性格なのだ。そこは熟知している。

「ありがたくお受けいたします!」

 すると礼が、泣きそうだけど、でもすごく嬉しそうな、そんな顔で微笑んだ。
 グッときすぎて苦しくなって、思わず歩み寄り、僕は彼女を抱きしめた。

 少しの間抱きしめていると、礼が静かに泣いていることに気がついた。
 涙を拭ってあげてから、僕は左手の薬指に指輪をはめた。

「礼、愛してる。ごめんね、最初の日、好きすぎてさ。押し倒しちゃった」
「……男の人と女の人は考え方が違うって、私は全然知りませんでした!」
「君は何も悪くないんだよ」

 彼女の額にキスをして、僕は更に腕に力を込めた。
 こうやって抱き合うのも、思えば初めてだ。
 華奢すぎて、折れそうだ。けど胸はそれなりに大きいからあたっているという僕の煩悩は収まるべきである。

「結婚を前提に付き合ってくれる?」
「はい」
「僕のこと好き?」
「はい!」
「――いつから?」
「ずっと昔からです! 柾仁さんはいつ私の気持ちに気づいたんですか?」
「墓場まで持っていく秘密だよ」
「あ……え!? じゃあ最初から!?」
「どうかなぁ――これから忙しくなるから、頑張ろうね」
「え、え!? 教えてください!」

 実際には今日だけどね。ま、墓場まで持っていく秘密に変わりはない。
 その後、唇に触れるだけのキスをした。
 そして、王宮に連絡し、速報の手配をしてもらった。
 あとは外堀を埋めるだけであり、それは彼らがプロだから、任せればいい。

「礼、おいで」

 僕はそのまま仮眠室に行き、礼を今までにないくらい優しく抱いた。



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