僕は王室初のクズかもしれない。

猫宮乾

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【八】

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「おはよう」

 僕はにこやかに返した。すると礼が首をかしげた。

「? 今日はご公務が入ったんですか?」
「――どうして?」
「そういう日のお顔で笑ってるから……?」

 確かに今の僕は、完璧な作り笑いだ。寧ろ多くの人間は、これが僕の素だと思っているはずだ。しかし内心の激怒と嫉妬心までは、付き合いの長い礼も気づいていない。やはり笑顔は、僕の特技だろう。少なくとも、料理よりは。

 荷物をロッカーにしまい始めた礼と入れ替わりに、僕は玄関の扉の前に立った。
 そしてすぐに訪れた春香とアシェッドに朝の挨拶をされた時、おはようと返してから告げた。

「悪いけど、今日は二人とも休んで」
「「……」」

 二人の笑顔が瞬時にこわばったから、笑ったつもりだったけど、相当僕は怖かったのだと思う。頷いて二人は帰っていった。扉を閉め、僕は鍵をかけた。

「あれ? 春ちゃんたちは?」

 中へ戻ると、礼が首をかしげた。
 改めて見れば、本当に柔和な美女としか言いようがない。
 なのに無邪気に疑問そうに僕を見ている。
 ――この、身の危険さえ感じていないところにまで頭にきた。

「柾仁さん……?」
「今日は、あの二人、お休みなんだ」
「……怒ってます?」
「どうして?」
「だ、だって……笑ってるのに、笑ってなくて……なんていうか、なにかあったんですか?」
「そうだね。ちょっとついてきて」
「は、はい!」

 僕は礼に見える角度では笑顔で、仮眠室の扉を開けて見えなくなった角度では無表情で、中へとはいった。それからまた振り返り、笑顔を浮かべた。

「ちょっとそこに座って」
「はい!」

 完全に僕が怒っていると確信した様子でオロオロしながらも、礼がベッドに座った。
 ――もういいや。
 プツンと何かが途切れた。こうして顔を見ればすぐにわかった。
 完全に僕は、礼が好きみたいだ。
 これまでの人生において、後先考えない行動をしたことは、一度もない。
 だが、僕は、もういいやと思ったのだ。

「礼は、最近どんな料理を覚えたの?」
「ええと、毎日おみそ汁を作る練習をしてま――……っ、ど、どうして?」
「美味しくできた?」
「それが柾仁さんのより、どうしても美味しいのはできなくて……」
「誰が判断してくれてるの?」
「自分で判断してます。だって私しか、柾仁さんが研究室で作ったお味噌汁飲んでないし!」
「ほかの人には飲ませてないの?」
「上手になったら、いつか振る舞います!」
「へぇ。ところで、どこで料理してるのかな?」
「おうちです! あっ……の……っ」

 礼が目を見開いた。


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