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【三】

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 研究室の扉がノックされたのは、五月の半ばのことだった。
 教授が顔を出すのは朝なので(……それも二ヶ月に一回くらい)、誰だろうかと四人で顔を見合わせた。一応代表して、僕が出た。僕だったら、大体誰が相手でも対応可能だからだ。僕か春香しか、選択肢はない。見た目的にアシェッドは外国人らしい外国人なので来訪者が焦る場合があるし、礼はちょっとぶっ飛んでいるからだ。

「久しぶりだな柾仁」
「ぶは」

 しかし思わず僕ですら吹いた。立っていたのは、紺だ。隣にはミレイユがいる。紺は礼の従兄だ。ミレイユはそのカノジョである。

 とりあえず中に招き入れ、みんなで再会を喜んだ。
 それから僕は聞いた。

「いつこっちにきたの?」
「四月だ」
「――いつまでいるの?」
「二年後だ」
「長いね。どこでなにするの?」
「ここの精神医学研究室が俺、簡単に言うと内科がミレイユ」
「……なんでこっちにこなかったの? ふざけてんのかな?」
「言葉が乱暴になってるぞ、王太子殿下」

 楽しそうな紺の表情に、思わず僕は顔を引きつらせてしまった。

「礼は知ってたの?」

 春香の声に、それまでただひとり驚いた様子がなかった礼が頷いた。

「うん。伯父さんから電話が来て、こっちに来るからよろしくって。経営をやってたのに、ここに来て精神医学って、最終的には何になるのかわからないって言ってたよ!」
「――へぇ? いやぁ、父さんも、礼に頼むあたり、頭が悪いな。逆ならわかるんだけどな。正確に一言一句再現してもらえるか? 嘘じゃないならば」
「……本当は逆だったの。ちゃんと紺に面倒を見てもらいなさいって!」
「だろうな。で、今は誰が面倒を見てるんだ? 俺には、春香とアシェッドが同じ指輪をしているように見える」

 その言葉に春香が今にも惚気だしそうな顔をした。

 しかしその前にアシェッドが口を開いた。

「同棲してるんだ、僕たち」
「アシェッド、お前、やるなぁ……へぇ。じゃあ、礼は一人暮らし? 無理だろう? ちなみに俺とミレイユも同棲中だ」

 そう言って紺が僕を見た。僕は閃いた。救世主が現れたのだ!

「紺。その通りなんだよ。礼は、ほうっておくと死んでしまうんだ。食べないし寝ないんだよ! 君達のところで、親戚なんだし、責任を持って引き取って!」
「断る! なんで同棲中なのに、礼の面倒を見なきゃならないんだ? 今までも何とかなっていたってことは、ようするに残ってる柾仁が面倒を見てたんだろう? 興味本位で聞くけど、ちなみどうやって?」

 僕が一日の流れを説明すると、紺が大爆笑した。笑い事ではないのにね!

「こんなにしっかりものの王太子殿下がいるんなら、この国は安泰だ! 礼はその国の、大切な国民だ! 国民を大切にな! 俺とミレイユは外国籍だから、ちょっとなぁ」
「紺。僕、殴ってもいいと思うんだよね、君のこと」
「前科持ちの王太子殿下なんて前代未聞だろう? やめておいたほうがいいぞ。法学をやってきた経験上、訴えることが可能だ」
「はぁ……とはいってもさぁ……礼はやりすぎだよ」
「頼むって言ったし、任せただろう?」
「引き受けたけどね……ここまでとは、さすがにね」
「それより、研究の方はどうなんだ?」
「片方はほぼ終わってる。僕が根幹理論たてて、礼がほぼ固めた。もう一個の方が難航中。だからひとつは、近々完成する可能性が高いよ」

 そこから、僕たちは全員で研究について話した。
 離れていたが紺とミレイユも即座に理解して、ディスカッションが開始した。



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