2 / 16
【二】
しおりを挟む――あれから長い時が経過した。
公務の傍らだが、思いのほか両親――つまり国王陛下と王妃様が乗り気で応援してくれて、ガンガン肩代わりしてくれるため、僕は研究室に最近つめっぱなしである。現在修士課程二年生。僕の友人のアシェッドが一年生。春香と礼が大四で、卒論も実は提出済みで、彼女達二人も研究室につめっぱなしだ。王族だからなのか、研究内容を僕たち以外理解できないからなのかは知らないが、基本的に、四人しかここにいない。一応名目上、担当教授はいるのだが、もともとあった研究室にばっかりいる。こっちには来ない。たまに来て、笑顔を浮かべ頷いて去っていくだけである。
僕には最近悩みが二つある。
春香とアシェッドが本格的に仲良くなり始め、現在、恋人関係にある。そのため、完全に僕と春香の結婚話は消えた。元々僕らは恋愛結婚を期待されていたのだが、現在までに恋愛関係に至ることはなく、ただの友人だ。この部分は非常に喜ばしいし、アシェッドはすごく大切な友人だ。そもそも春香は僕の唯一と言っていい女友達だし、二人は僕の大親友なので、応援している。とはいえ、気を遣うなというのは無理だ。仲睦まじい二人の邪魔はできない。それもあるし、この事実を知る僕に対して双方が恋愛相談をしてくるので、とても困る場合がある。いつも笑顔で乗り切っているけれども。
さて、もうひとつの悩みだ。研究に没頭するあまり、そして春香というお目付け役が、恋で忙しくなったため、誰も礼をセーブする人がいなくなった事だ。誰かが止めないと、彼女はずっと研究しているので、食べないし寝ない。その上、研究室には、ほかに誰も人材がいない。結果的に、僕が以外止める人間がいないのだ。現在、春香は礼と暮らしていると家族に言い張り、アシェッドと暮らしている。アシェッドは結婚する気満々だ。そして名義的にはアシェッド宅に、礼は一人で暮らしている。家事が全くできないことは、もはや問題ではない。礼は、家に帰らない。ずっと研究しているのだ。こんなことになるなら、仮眠室なんかもうけるべきではなかった。いいや、無かったら、礼は死んでいただろう。設置時は、僕と春香がそういう関係になることを誰かが慮ったのかもしれないが、現在に至るまで、春香たちですら、そういう用途では使用していない。完全に、礼のベッドだ。
また、この研究室には、簡易キッチンがついている。これは全てに標準装備みたいだ。さて、僕は別段料理は得意じゃない。中学生の頃に家庭科で習った程度だ。きっと料理を覚える日は来ないと確信していたが、ここにきてまさかの、レシピを漁る日々だ。決して上手ではないが、一応食べられるはずだ。というか、家庭料理として言うなら、我ながら美味しいと思う。家庭料理を食べた経験があまりないのでなんともいえないが、数少ない経験で言うなら、僕は料理がうまいほうだ。
そのため僕の一日は、研究室の鍵を開けて、朝食を作り、礼をたたき起こすことから始まる。食べたあと、礼はシャワーに入る。僕は、その間にお皿を洗って、本日の準備をする。その後出てきた礼と研究を開始。少しして春香とアシェッドが来る。そして昼食を四人で食べ、二人が帰るのを見送る。それから礼に夕食を食べさせて、仮眠室へ行くように強制し、そこの鍵をバシッとかけて、研究室の鍵もかけて、帰宅している。トイレは仮眠室と玄関そばの二箇所にある。仮眠室の奥にトイレって、なんの配慮なんだろうね。シャワーもそっちにつけておけばよかったと僕は思う。なお、朝僕は六時に来て七時に礼を起こし、夜は十時に礼を寝かせて、十一時に帰宅している。研究はしているが、それ以外を加味すると、普通に会社員より酷い勤務体制だ。一応院生なんだけど。家族はみんな、僕が熱心に勉強していると信じているが、新しく得た知識は、レシピのみだ。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる