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【二】

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 ――あれから長い時が経過した。

 公務の傍らだが、思いのほか両親――つまり国王陛下と王妃様が乗り気で応援してくれて、ガンガン肩代わりしてくれるため、僕は研究室に最近つめっぱなしである。現在修士課程二年生。僕の友人のアシェッドが一年生。春香と礼が大四で、卒論も実は提出済みで、彼女達二人も研究室につめっぱなしだ。王族だからなのか、研究内容を僕たち以外理解できないからなのかは知らないが、基本的に、四人しかここにいない。一応名目上、担当教授はいるのだが、もともとあった研究室にばっかりいる。こっちには来ない。たまに来て、笑顔を浮かべ頷いて去っていくだけである。

 僕には最近悩みが二つある。

 春香とアシェッドが本格的に仲良くなり始め、現在、恋人関係にある。そのため、完全に僕と春香の結婚話は消えた。元々僕らは恋愛結婚を期待されていたのだが、現在までに恋愛関係に至ることはなく、ただの友人だ。この部分は非常に喜ばしいし、アシェッドはすごく大切な友人だ。そもそも春香は僕の唯一と言っていい女友達だし、二人は僕の大親友なので、応援している。とはいえ、気を遣うなというのは無理だ。仲睦まじい二人の邪魔はできない。それもあるし、この事実を知る僕に対して双方が恋愛相談をしてくるので、とても困る場合がある。いつも笑顔で乗り切っているけれども。

 さて、もうひとつの悩みだ。研究に没頭するあまり、そして春香というお目付け役が、恋で忙しくなったため、誰も礼をセーブする人がいなくなった事だ。誰かが止めないと、彼女はずっと研究しているので、食べないし寝ない。その上、研究室には、ほかに誰も人材がいない。結果的に、僕が以外止める人間がいないのだ。現在、春香は礼と暮らしていると家族に言い張り、アシェッドと暮らしている。アシェッドは結婚する気満々だ。そして名義的にはアシェッド宅に、礼は一人で暮らしている。家事が全くできないことは、もはや問題ではない。礼は、家に帰らない。ずっと研究しているのだ。こんなことになるなら、仮眠室なんかもうけるべきではなかった。いいや、無かったら、礼は死んでいただろう。設置時は、僕と春香がそういう関係になることを誰かが慮ったのかもしれないが、現在に至るまで、春香たちですら、そういう用途では使用していない。完全に、礼のベッドだ。

 また、この研究室には、簡易キッチンがついている。これは全てに標準装備みたいだ。さて、僕は別段料理は得意じゃない。中学生の頃に家庭科で習った程度だ。きっと料理を覚える日は来ないと確信していたが、ここにきてまさかの、レシピを漁る日々だ。決して上手ではないが、一応食べられるはずだ。というか、家庭料理として言うなら、我ながら美味しいと思う。家庭料理を食べた経験があまりないのでなんともいえないが、数少ない経験で言うなら、僕は料理がうまいほうだ。

 そのため僕の一日は、研究室の鍵を開けて、朝食を作り、礼をたたき起こすことから始まる。食べたあと、礼はシャワーに入る。僕は、その間にお皿を洗って、本日の準備をする。その後出てきた礼と研究を開始。少しして春香とアシェッドが来る。そして昼食を四人で食べ、二人が帰るのを見送る。それから礼に夕食を食べさせて、仮眠室へ行くように強制し、そこの鍵をバシッとかけて、研究室の鍵もかけて、帰宅している。トイレは仮眠室と玄関そばの二箇所にある。仮眠室の奥にトイレって、なんの配慮なんだろうね。シャワーもそっちにつけておけばよかったと僕は思う。なお、朝僕は六時に来て七時に礼を起こし、夜は十時に礼を寝かせて、十一時に帰宅している。研究はしているが、それ以外を加味すると、普通に会社員より酷い勤務体制だ。一応院生なんだけど。家族はみんな、僕が熱心に勉強していると信じているが、新しく得た知識は、レシピのみだ。



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