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【61】巻き戻しの言葉。⑤

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「そう仰るような気がしてました」

 ユーリスの声が響いてきた。その手のぬくもりが、聖剣を握っている俺の右手にある。それだけで泣きそうになったが、慌てて俺は一人首を振り、聖剣を握りなおした。俺から聖剣を奪おうとしているユーリスが、目を瞠ったのがわかった。

「いいや、良い、俺がやる」
「殿下……」

 非常に剣が重く感じた。理由が分かる。もう俺には――なんの力もないから、聖剣が放っている気配だけで、倒れそうになっているのだ。しかし、剣技は俺が体で身につけたものだから、忘れてはいない。

 一度唾を飲み込んでから、俺はしっかりと立ち直して、前へと出た。
 振り返ると、ライネルと目があった。ゆっくりとだが、大きく頷かれた。
 ラクラスの姿を探したが、つい先程「戻った時には隣にいる」と言っていたくせに、どこにもいない。やはり気まぐれだな、なんて、場違いにも思ってしまった。

「ユーリス」
「はい」
「俺はお前を信用してる」
「――光栄ですね。そんなことを言われる日が来るなんて」
「この聖剣を俺がふるったあと、呪いの槍が来たら、俺を助けてくれるか?」
「?」
「どうやら始祖王を殺すと、人々から忘れられるらしいんだが、その呪いは、槍で刺されると発動するらしい。それ以上は、何も聞かないでくれ」
「――わかりました」
「ただしひとつだけ命令がある」
「なんなりと」
「絶対に死ぬな。俺をかばって死ぬことも、俺の代わりに何かをして死ぬことも許さない。この場において、これ以上の命令は存在しない。いいな?」
「……」
「返事をしろ。安心しろ、俺にも死ぬ気はない。俺は死なない」
「――御意」

 そんなやりとりをしてから、俺は寝台に歩み寄った。
 そして剣を振り上げて、まっすぐに心臓を突き刺した。
 始祖王の古き体は起き上がって俺を槍で突き刺そうとしたが、腕ごとそれは、ユーリスが切り捨てたため、槍は天井に突き刺さっただけだった。

 あっけない終わりだ。だが安堵でいっぱいになり、俺はその後座り込んだ。
 しかしユーリスが、「誰かに見られてはまずい、すぐに離れましょう」と言って、俺を強引に立たせたから、ユーリスが生きているという感動に浸る時間は少なかった。


 ――離れの塔が燃えているという知らせが来たのは、その直後である。
 回廊を走りながら、俺はその知らせを耳にした。
 ラクラスがやってきたのは、その時のことである。

「安心しろ、無事に始祖王は燃え尽きた」

 今度こそ全身から力が抜けて、俺は倒れそうになった。
 そうか、ラクラスはそちらの対処をしてくれていたのか。
 一緒にやってきたエクエスが、ユーリスに手紙を渡した。
 不思議そうに受け取ったユーリスは息を呑み、それから俺を見た。

「――国王陛下を殺害したウィズ殿下が自害なさった、と、のちの歴史書に記載するべく、準備をしてきます。もう何もご心配なさらないでください。フェル殿下を投獄させるようなことは決してありません」

 ユーリスはそう言うと走っていった。相変わらず、頭が回るやつである。



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