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【57】巻き戻しの言葉。①
しおりを挟むそれから一週間ほどが経った。
俺の国は、帝国の支配下におかれる事になったが、無血での戦争だったとして、王都の民衆の混乱は、常時の戦争に比べれば少ないのだろうと思う。このような国の非常事態に戦争を仕掛けてきただなんて、と、帝国とハロルドへの非難は強いが、ハロルドは何も言わなかった。
現在俺は、ユーリスの墓の前に来ている。
誰かが先に来ていったらしく、置かれた花束の、白いリボンが揺れていた。
この場所を知っていて花束を持ってきそうなのは、ハロルドだけだ。
召喚獣が花束を置くイメージはない。
そう考えながら、俺は隣に立つラクラスを一瞥した。
ラクラスは、今も昔も変わらずに、俺の隣にいる。
だが――昔と違って、もうどこにも、ユーリスの姿はないのだ。
改めてそう思った瞬間、体が震えた。足元の地面がなくなってしまったような、不安定な気分になる。頬が濡れたから、何かと思ったら、俺は静かに泣いていた。そう気づいてしまうともうダメで、俺はぼろぼろと泣いていた。
ユーリスのおかげで、俺は何もせずとも、現在は安全を保たれている。
処刑される気配もない。ずっと俺のためを思ってユーリスは行動していてくれたのだ。
だが、奴は馬鹿だ。ユーリスが不在になったら、誰がユーリスのように、俺に言葉をかけてるというのだろう。ちょっと意地が悪かったり、腹黒そうだったり、そんな言葉の数々を思い出す。吹き出すように笑うユーリスの姿は、もう俺のそばにはないのだ。
俺は震える体を抱きしめた。気づくと号泣していた。声を押し殺すことに必死になった。
すると歩み寄ってきたラクラスが、俺の頭を撫でた。
「やめろ、子供じゃない」
「――助けたいか?」
「無理な事を言うな」
八つ当たりだとはわかっていたが、俺は思わずラクラスを睨んでしまった。
ラクラスは、そんな俺を、透き通るような瞳で見ていた。
「人間には無理だろうな」
「召喚獣にだって死者を生き返らせることなどできないはずだ」
「ああ。それは不可能だ。可能だったならば、お前が前世で処刑された瞬間には、俺がそれを行っていた自信がある。死は、この世界に生きるすべてのものに等しい理だからな――ただ、聞きたかったんだ、お前の口から。フェルは、あいつともう一度会いたいのか?」
「……ああ、会いたい。そしてもしもあの瞬間に戻れるのであれば、俺は――」
絶対にユーリスを死なせたりしないだろう。
あの時、俺が自分の手を汚すのを迷わなければ、ユーリスが死ぬことはなかったのだ。
「助けたいのか?」
「もちろんだ」
「――正直、話すのを迷った。だから今になった」
するとラクラスが、どこか諦観しているような声で言った。
「ひとつだけ、方法がある。生き返らせるわけではないが、フェルの願いをおそらく叶えられる方法だ」
「なに?」
「フェルがもともと、人生を一度巻き戻してやり直したとき、【巻き戻しワード】として、強い思いが詰まったユーリスの言葉を魔法鍵にして、記憶の維持をしていた。その言葉が放たれた場面の前後には、時空の記憶点が刻まれているはずだ。それは、召喚獣の時間と同じで、一つの方向にしか流れない、時間の一側面だ。もしもその【巻き戻しワード】を特定できたならば、それを用いて、フェルは――また巻き戻ることができる」
「!」
「ただし、既に協力者は存在しない。一人で行うには、相応の代償が必要となる。そして、これを最後に、二度と巻き戻ることもできなくなるだろう。本来、巻き戻るなんていうのは、人間には過ぎた行為だしな」
「……」
「つまり、ユーリスを生き返らせるんじゃなく、お前がユーリスが死ぬ直前に戻ってその死を阻止することは可能だという話だ。この場合、問題となるのは、始祖王もまた復活してしまう点だ。俺だったら、命懸けで倒した相手が、復活するというのは嫌だけどなぁ」
俺は目を見開いた。言葉が喉で凍りついてしまったようで、何も発することができない。だが――ユーリスにまた会えるのだろうかと思うと、ドクンと鼓動が強く響いてきた。
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