もしも生まれ変わったら異世界へと思っていたら、転生先も俺でした。

猫宮乾

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【53】俺以外に、墓標を作る人間は思いつかない。④

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 その日の午後、葬儀のために、隣国からハロルドが客として訪れた。
 帝国皇帝の来国に、王宮は一気に慌ただしくなった。
 だが俺にとっては数少ない友人の一人だ。接待役を買って出て、俺はハロルドと二人で自室へと向かうことにした。ハロルドが俺の部屋を久しぶりに見たいといったからだ。客人として王宮に滞在していた頃は、何度か遊びに来たことがあるのである。エクエスも来ていて、ライネルとラクラスは、俺達を部屋に送ったあと、少し召喚獣同士で話すと言ってどこかへ出かけて行った。

「この槍は?」

 入ってすぐに、ハロルドが壁を見た。
 そこには、ライネルが立てかけていった、始祖王の呪いの槍があった。
 魔力が強すぎるため、王宮の他の保管場所を決めるまでは、暫定的にこの部屋に置いておくことにしていたのである。忘れていたわけではないが、ライネルが一般人には見えない処理をしていたため、ハロルドにも見えないだろうと、勝手に思っていた。迂闊だったなと後悔した。

「新しく見つかった遺跡の関連で少しな」
「ああ、始祖王の墓が見つかったと聞いた」

 疑う様子もなく頷いたハロルドは、それから俺が最近ずっと持っている聖剣を改めて見た。何故なのかユーリスの形見に思ってしまっているからなのか、俺はこれを手放せない。

「そちらも遺跡にあったのか?」
「まぁな」
「少し見せてくれないか?」

 そう言って手を伸ばしたハロルドに、少し迷ったが、俺は聖剣を手渡した。
 するとハロルドは、模様をじっと見据え、指でそれをなぞりはじめた。

「尋常じゃない力が入っているな」
「聖剣と呼ばれるほどだからな」
「生み出した人間の強い想いも、過去に手にした人間の強い想いも、この剣が築いて忘れられたいくつもの歴史も、全部詰まって、それがさらに聖なる力の根源になっているらしい。触れているだけで、強くそう感じる」

 ハロルドの声に、俺は再びユーリスを思い出した。

 その時のことだった。
 乱暴に、俺の部屋の扉が開け放たれた。
 駆け込んできたのは、近衛騎士団の連中である。ライネルの姿はもちろんない。
 ハロルドも剣を手にしたまま、驚いたように扉を見ている。

「――第一王子殿下、次期国王陛下の意識がお戻りになりました」
「兄上が? 大丈夫なのか?」
「白々しいことを――っ、ウィズ殿下を幽閉し、国王陛下を殺害した罪で、フェル殿下を拘束させていただきます!」
「……え?」

 首をかしげた瞬間、入ってきた近衛達に両側から挟まれた。
 直後、首の後ろに鈍い痛みを感じた。
 麻酔薬を塗った針を刺されたのだとわかったのは、視界がぐらりと歪んだ時だった。

 ハロルドがなにか叫んだのが聞こえたが、俺はそれを理解する力もなく、意識を闇に絡め取られた。



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