もしも生まれ変わったら異世界へと思っていたら、転生先も俺でした。

猫宮乾

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【44】始祖王について色々と学んで聖なる剣を手に入れる。④

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「横の古代文字には、『三番目の召喚獣による時空魔術において、新鮮な肉体の時を止め、心臓を止め、始祖王の心臓もまた止めて、その止まった状態で心臓を転換し、【生命の引き継ぎ】か完了となる』と書いてありますね」
「三番目の召喚獣――ラクラスか。ラクラス、お前は心臓の転換になにか関わっているのか?」
「答える気はない。そこのいけ好かない宰相にでも聞け」
「ではお言葉に甘えて。率直に言って、ラクラス様の魔術がなければ、心臓の転換は行えないようですよ。ラクラス様が双方の心臓の時を止めてその一瞬で新しい体に適応できるよう魔力を調整しなければ、不適合で心臓がうまく動かず、死に至るようです。また、心臓付近のみ細胞の成長老化にも、時空魔術で関与していると、この古代文字からは読み取れます。こんなことは言いたくありませんが、ラクラス様がこれまでに、心臓の転換を手伝ってこられたとしか思えませんね、この記述からだと」

 ユーリスの声に、俺は眉をひそめた。
 だが、それが真実だとしても、俺にはラクラスを糾弾できない。
 ラクラスにはラクラスなりの理由があっただろうし、命じていたのが最初の主人ならば、なにか特別な約束だってあるかもしれないのだ。

「とすると、ユーピルテが守りたいウィズ第一王子殿下の心臓ですが――……この記載通りに行くならば、ラクラス様が転換に関わるという事です。ユーピルテはお礼を言っている場合なのか、俺にはわからないなぁ」
「っ、ユーリス様! 僕はそれは大丈夫だと思います!」
「根拠は?」

 必死に声を上げたユーピルテを、腕を組んだままユーリスが一瞥した。

「僕がここに来る前に、聖剣を持っていった先客は、ラクラス様だからです。だって、僕が手に入れようと考えていた聖剣を、今背中に背負ってらっしゃいます。その剣の用途は、始祖王を殺すことだけです!」
「――これを始祖王自身が手に入れれば、もうほかの誰もが、始祖王をあやめられなくなるということで、回収を命じられた可能性もあるんじゃない?」
「ありえません! だって魔族の王は、一度不死の始祖王を殺して、呪いを受けたんですよ!? 僕はそれを見ていました。その時始祖王に、次にこの剣を手にする時は、お前を殺す時だと言っていました!」
「ユーピルテは人型を取れるだけあって、長生きの高位の召喚獣だと改めて思ったよ――俺もそんな過去は知らなかった」

 ユーリスがそう言って、ラクラスを見た。ラクラスは何も言わない。
 俺はふと思い立って、ユーピルテに尋ねた。

「不死の始祖王を殺す、これは心臓の転換を阻止して二度とできないようにすればよいのだろうと思うし、聖剣を用いるということでいいんだな?」
「はい!」
「では――呪いとは何だ?」
「存在が蝕まれることだと聞いています」
「存在が蝕まれる?」
「わかりやすく言うならば、人々の記憶から消えてしまうんです。人間だったら、最初からいなかったことになってしまうと思います。ラクラス様クラスの召喚獣であれば、その時点までの思い出や軌跡を自分以外がみんな忘れてしまうくらいで済みますし、新しくまた思い出を作れば、それは周囲の心に残ると思いますが、人間にはとても太刀打ちできないと思います。運命の抹消です」

 俺は静かに頷いた。自分の存在を皆が忘れるというのはどういう気分なのだろう。
 ラクラスを一瞥すると、ぐいと手を引かれて抱きしめられた。

「俺は、お前に覚えられていればそれでいいし、仮にお前が俺を忘れたら、その時には新しい思い出をお前とつくる。俺は、お前のそばにいる」

 耳元でそう囁かれ、俺は微苦笑した。



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