異世界クリエイター ～ゲームをしていたら、神様に剽窃されました～

―― 第三章 ――

【019】婚約破棄

「いやぁ、やっぱり俺と夕陽は運命らしいな」

　外に出ると、梓馬さんが上機嫌だった。夕陽は仏頂面だ。

「梓馬以外誰とも会わなかった。梓馬じゃ観察のしがいがなさすぎる……」

　兄は不機嫌そうに、こめかみを解している。
　俺と高橋はそれを見ていた。

「うっ、ぐす……ひっく……ふぇ……」

　その時泣き声が聞こえてきたので、俺は何気なくそちらを見た。すると金髪碧眼の背の低い青年が、ボロボロと泣いていた。綺麗な顔が台無しである。

「どうかしたのか？」

　夕陽が顔を上げて、歩み寄った。夕陽は困っている人を見ると放っておけない性格だ。俺はどちらかと言えば、様子を見る。だって俺の手には負えないかもしれない。

「……婚約破棄されたんです」
「そうか……理由は？」

　屈んで兄が問いかける。

「他に好きな人が出来たと言って……鏡の迷路でも、ぼく達きちんと遭遇したのに……運命のはずなのに……どうして……っく」

　両手で顔を覆い、青年が号泣し始める。梓馬さんは腕を組み、高橋は迷路をちらっと見ている。俺も視線を追いかけて迷路を見た。もしも本当に運命の相手と遭遇するならば、俺の相手はルカスということになる。いやいや、そんな馬鹿な。

　そこで思い出した。ルカスは魅了魔術の調査をしていると話していた。
　俺は【神様モード】で、その魔術の効果を調べてみた。

《魅了魔術とは、指定した相手を、自分に惚れさせる魔術です。主に、首飾り型の魔導具を用います。赤い魔石が嵌まっています。石の魔力を無効化することで、魅了魔術は解除可能です》

　そう書いてあった。
　俺はゆっくりと青年を見る。

「なぁ、そのさ、元婚約者が好きになった相手って、赤い石の嵌まった首飾りをしてた？」
「は、はい」

　すると驚いたように青年が顔を上げた。
　……だとすると、魅了魔術の可能性がある。俺には、解除が可能だ。

「その元婚約者の好きな相手は、今どこにいるんだ？」
「今も領主様のお屋敷で、僕の婚約者だったオズウェルと二人で、マシスはいると思います……」
「お前は、名前は？」
「僕はサリアと言います」
「二人のところに、つれてってくれるか？」
「そしてどうするんですか？　ひっく」
「えっ……そ、そのあっちの話も聞いてみようかなと」

　俺はちょっと苦しい言い訳をしたが、夕陽が名案だという顔をした。

「可能なら、説得してみるか。きちんとサリアくんのことを見るようにと」
「そうだな。運命じゃないなんて証明は聞きたくない」

　すると梓馬さんも同意した。高橋だけがボソっと言った。

「余計なお世話なんじゃない？」
「行くぞ高橋！」
「うん」

　俺は勢いで誤魔化した。
　こうして俺達は、領主宅へと続く長い坂道を上ることになった。