17 / 22
―― 第三章 ――
【017】次の行き先
しおりを挟む宿に戻ると、高橋と梓馬さんの姿があった。夕陽が、目に見えてほっとした顔で喜んでいる。俺が杖を手に歩み寄ると、三人が俺を見た。
「聞いてくれ、陽射」
「高橋、無事でよかった。どうしたんだ?」
「すっごい強かったんだよ、梓馬さん。あれはやばい」
「へ?」
「俺の回復能力もやばいけど、強すぎる」
がしっと高橋が俺の両肩を手で叩いた。
「魔獣はどんなのだったんだ?」
「光になって消えるから、エグさは無かった」
「なるほど」
「ところで、お前その杖どうしたんだ?」
「ん……ああ、武器店にいってきたんだよ」
「お前金持ってたの? 梓馬さんにいつの間にか貰ってたのか?」
「い、いや……ええとな、その……貰ったんだ」
杖は実際に貰った。だから嘘はついてない。短剣はかったけれど、それは黙秘だ。
そのとき、咳払いが聞こえた。
見るとロイドが、こちらを見て、笑っていた。だが、俺を見る目が笑っていない。
「失礼だが、ヒザシはタカハシとどういう関係だ?」
「え? 友達だけど」
「恋人ではないんだな?」
「うん。それはあり得ないかな。ええと、なんで?」
「タカハシの優しさが、その……ええと」
言いよどんだロイドを見ると、タカハシがうざったそうな目をした。
「そういうのいいから」
「高橋、なにがどうなってるんだ?」
「魔獣討伐は一瞬で終わったんだよ、梓馬さんのおかげで。だけど森を夜歩くのは危険だからって事で、その場で野営をしてたら、なんか急にロイドが俺を口説き始めたんだ。どこのチョロインだよ、本当」
高橋は、不機嫌そうである。こういう時は、深くは聞かない方がいい。
「ロイド様、そろそろ騎士団の撤収を開始しますが」
そこに部下らしき人が声をかけてきた。するとロイドが実に悲しそうな顔をした。
「名残惜しいが俺はいく。絶対にまた会おうな、高橋」
そう言って、ガシッと高橋の手を握りしめた。高橋は死んだ魚のような目をしている。
こうしてロイド達騎士が帰っていった。
「お前ら、こっちに来て座れ」
すると梓馬さんに声をかけられた。俺と高橋は、素直にテーブルへと向かう。
四人で座ると、梓馬さんが腕を組んだ。
「さっき宿屋の店主に聞いたんだけどな、この原初都市には、大陸のどこにでも転移が可能な魔法陣があるらしいんだ」
なんとも便利だなと考えていると、夕陽がうっとりするように高橋を見ていた。
高橋もその視線に気づいている。しかし高橋は理解していない様子だ。
……兄はどうやら、高橋とロイドの関係を妄想しているようだ。
俺はすぐに悟った。
「それで、どこに行く?」
梓馬さんが呆れた顔で夕陽を見ながら仕切っている。
「恋人同士が多いところに行きたい!」
すると夕陽が勢いよく答えた。欲望がダダ漏れである。俺以外の二人がどんな反応をするかと思っていると、梓馬さんはニヤッと笑った。
「いいな。俺と夕陽が並んで歩くのには丁度いい」
「それ、どんな名前の都市なんですか?」
高橋が胡散臭そうな顔をした。すると梓馬さんが、手にしていた大陸の地図を、テーブルに広げた。すかさず夕陽が指をさす。
「聖愛都市ラヴァーズというところが、恋人達の聖地だと、お前達を待っている間に、宿の人に聞いた。なんでもそこには、永遠の恋を保証する鏡の迷路があるらしくて、迷路で出会えると、その二人の愛は永遠らしい。魔術がかかっているそうだ」
「へぇ。試そうぜ、夕陽」
「? 何故? 俺は観察をするんだぞ?」
「――だ、だから、中に入った方が観察しやすいだろ」
「それもそうか」
兄はどうやら、気分を切り替えているようだ。昔から、夕陽は適応力が高い。
こうして俺達は、次の目的地を決めて――流れるように旅立つことになった。
部屋で荷物をまとめながら、俺は朝会ったルカスは無事に泊まれたのだろうかと考える。まぁ、もう二度と会うこともないだろうが。そう思って、俺はすぐにルカスのことを忘れた。
0
お気に入りに追加
234
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
ちょっと待ってもらっていいですか?とりあえず、10年ぐらい。
15
BL
頭、普通。顔、まぁまぁ(当社比)。性格、普通(?)。
毎日毎日普通の生活を送っていた俺。
朝目が覚めたら、そこは森でした。…は…?
気づいたらイケメンに囲まれ、求愛され…俺もうついていけねぇよ!!
ちょっと待ってくれ!お願いだから!あと10年ぐらい!!!
とっても普通(顔は普通ではない)な青年が突然トリップする話。
ここは、ゲームの世界。でも現実。強くてニューゲーム、不可。
総愛され。
いつになるかはわかりませんが、こっちはささっと物語を進めたい。です。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。


婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる