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―― 第二章 ――
【011】部屋割りと依頼書
しおりを挟む「二人部屋で頼む」
受付で、ドきっぱりと梓馬さんが宣言した。すると夕陽が梓馬さんを見てから、俺に顔を向けた。
「じゃあ俺は陽射と」
「陽射は高橋くんと一緒の方がいいだろ。親しいんだからな」
「でも俺は家族だぞ? 陽射が心配だ」
「俺どっちでもいいですけど、できれば陽射とがいいです。梓馬さんとだと気まずさしか無さそうだし」
高橋の言葉が決め手となったのか、夕陽が唇を引き結んだ。
こうして俺達の部屋割りは決まった。隣り合わせの二人部屋で、俺と高橋、夕陽と梓馬さんだ。梓馬さんの下心を察知している身としては、兄の貞操がいつまで無事かは気になるところではあるが、口を出すのもなんだ。
ギシギシと軋む階段を三階まで上っていき、俺達はそれぞれの部屋に入った。
高橋が左のベッドに陣取ったので、俺は右に座る。中央にはテーブルと椅子があり、窓からは夕焼けが見える。
「依頼さ、やってみるか?」
高橋が俺を見てから、眼鏡の位置を指で直した。俺は唸った。
「内容による」
「もしかして陽射ってお前ってスローライフ希望?」
「なんだそれ?」
俺は素直に首を傾げた。すると高橋が唇の両端を持ち上げる。
「まったり暮らすだけって感じ。農業したり」
「あー、確かにそれもいいよな。俺別に、刺激を欲してるわけじゃないし」
考えてみるが、異世界に来たからといって、冒険したいというような願望は俺には無い。どちらかといえば安定した暮らしがいい。
「高橋は、冒険したいのか?」
「冒険って言うか、せっかく異世界に来たんだから、色々見てみたいって感じ」
やはり高橋には、旅に出てしまう空気がある。連絡が取れるようにしておいて本当に良かった。
「依頼よりも先に、まずは武器とか装備……そもそも俺達私服の――日本の服のまんまだし、明日は買い物だな。梓馬さんにお金を貰わないと」
「うん。俺も高橋の意見に賛成だよ」
俺達は頷き合った。
そして壁の上部にある丸時計を、何気なく俺は見た。夕食の時間は、受付で聞いたかぎり、十九時から二十三時までの好きな間で、追加で注文する分には午前二時まで酒場はやっているらしい。俺達は、四人で食べる事にして部屋に入ったので、約束の十九時までは、あと一時間ほどある。
「なぁ、陽射。先に降りて、依頼書を見ないか?」
「ああ、いいよ」
こうして俺達は、ベッドからそれぞれ立ち上がり、部屋の扉へと向かった。
そして一階まで降りていき、受付のそばにある木のボードを見た。そこに羊皮紙が画鋲で貼り付けられている。これが依頼書だ。
「ランクがあるらしいな。高橋はどんな難易度がいいんだ?」
依頼書の左上に、赤いはんこが押してある。中央に絵や写真が記載されており、その下に報酬、さらに下に細かい説明が書いてある。
「普通。俺のレベル、82だしな」
「そ、そっか……」
「陽射のレベルは?」
俺は沈黙し、【神様モード】をちらっと見た。ステータスを表示すると、〝フェイク〟という言葉があって、視線操作でそこを見ると、『周囲には、レベル1~100の一般人に映ります』という文言があった。これはいい。魔王がレベル98スタートであることや、勇者のレベルを踏まえると、俺は25くらいが望ましいだろう。しかしそう考えると、高橋はとてもレベルが高い。
……高橋の下くらいがいいだろうか?
「俺は、レベル65だよ」
「へぇ、以外だな。お前が創った世界なのに」
「まぁ、そんなもんだって」
別に隠すことはないはずなのに、俺はなんだか言えなくなってしまった。
理由は二つあって、一つは、俺がある意味最強だと露見したら、面倒ごとを押しつけられてしまいそうな気がしたのである。勿論三人が困っていたら助けたいが、余計な雑用まではしたくない。現実を振り返るかぎり、彼らは俺に色々頼んでくる。
二つ目の理由は、自分でも何処まで何が出来るか、まだ分かっていないから、周囲を期待させたくないと思い始めたからだ。現在のところ、宝の持ち腐れ状態だ。だから、少し使ってみてから判断したいと思う。
「俺は治癒関連が使えるから、回復術士っていう職業を目指すけど、陽射は?」
「ん」
「魔術師、剣士、はいる。梓馬さんは銃を持ってるから、それもあるんだろうけど、少なくともここに銃らしき職の募集は無いな」
「そ、そうだなぁ……うーん」
自分が剣を揮っている姿は思い描けない。だが魔術を使って派手な攻撃をするのはとても楽しそうだ。
「俺は魔術師を目指すよ」
「そっか。お互い頑張ろうな」
そんなやりとりをしながら依頼書を見ている内に、十九時になった。
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