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chapter:表 ……藍円寺の日常……
【3】「またのご来店をお待ち致しております」(★)
しおりを挟む「お疲れ様でした。またのご来店をお待ち致しております」
笑顔の青年――ローラというイケメンと、砂鳥という少年に見送られ、俺は今日も絢樫Cafe&マッサージを後にした。
初日以来――俺の中で、店への恐怖は、何故なのか……実を言えば、別に減ってはいない。本能的な恐怖とでも言うのか、遠くから近づく時と、遠ざかって家に向かう時は、未だに背筋がゾッとする。
だが、不思議とその感覚は、店に近づくにつれて減少していくし、店の前に来た時なんて、やっと本日の肩こりから解放されるとテンションが上がる。今までの人生で、こういう経験は無い。初めての事だから……単純に考えすぎなのかなと、最近では考えている。
考えすぎて、俺にとっての楽園と解放を逃すわけにはいかないだろう。
ただ……最近、気になる事がひとつある。
必ず気持ち良すぎて、途中でウトウトしてしまう事だ。
いつ微睡み始めたのかすら記憶にない。だが、パンと最後に肩を叩かれて、俺は目を覚ましている。うーん。相当疲れが溜まっているんだろうか……。それともローラ青年が、上手すぎるんだろうか。
俺、最初は、ローラというのは、店の名前なのかと、勘違いをしていた。
しかし、違った。
一度だけ、俺は勇気を出して、雑談を吹っかけたのだ。基本的にコミュ障の俺的には、多大なる努力を要したが。
「ローラというのは、店名か?」
「――いや。和名で戸籍を取得した時に、露嬉と当てていて、俺の名前ですよ」
彼は笑顔だったから、俺はホッとしたものである。
俺は、小心者だが、ぶっきらぼうな口調だ。しかしこれは、俺に限った事では無い。
この地方都市の方言のようなものなのだ。みんな、こんな感じだ。
その中でも、俺はちょっと癖が強いだけである。例えるなら、強い訛りと言える。
ローラ達は、都会――どころか、海外から来た様子だ。
あんまり悪い印象を持たれたくないのもあって、俺は、必要最低限しか話さない。
さて、そんな今日も、俺は癒されに向かった。
バスローブに着替え、寝台に上がる。
……ああ、そして……また、”いつもの”……夢が始まる。
目を覚ますと、どんな夢なのかは忘れてしまうのに、始まると”いつも”だと分かる。
「そろそろ、良いか」
何が、なんだろう?
俺は、ぼんやりとしたまま、首を傾げようとして、失敗した。
体に力が入らない。下着をおろされた時、僅かに羞恥から意識が強く戻ったが、基本的に霞がかかっている気分だ。
「あ……ああ」
指が入ってくる。それだけで、俺の体は疼く。後ろの孔を暴かれる時、俺の体は歓喜するようになった。最近では、裸にされて直ぐに指が入ってくる。するとそれだけで、俺の陰茎はそそり立つのだ。俺は男だから濡れるわけが無いし、排泄するための器官から愛液が出るわけも無いのだが、この指が挿入される際、いつもクチュリと卑猥な水音が響く。
「あ、ぁァ……あ、あ、ン……んぅ、ひぁ!」
覚えさせられた前立腺――そこを的確に刺激されると、頭が真っ白に染まる。しかし俺は、果てられない。どうしようもなく出したいと思うのに、それをしてはダメだと強く思うのだ。我ながら意味不明の支離滅裂な思考だが、夢なんて、多くはそんなものなのだろう。俺は、夢について考えるよりも、夢の中であっても俺には現実に思える、気持ちの良い刺激を追う事に夢中になった。
「う、うぁ……ァ……」
グチュグチュと音を立てながら、二本の指を抜き差しされる。時折かき混ぜるようにされ、時々振動させられる。どちらの時であっても、俺の感じる前立腺に、刺激が届く。すると射精感が募っていく。だが――最近の俺は、そのまま、ドライでイかされている。
俺は、ローラの指の虜だ。
愛おしくて仕方がない。
もう、彼の指が無くては、生きていけないかもしれない。
マッサージに来ているはずなのだが、俺は、今では、彼自身に与えられる別の……この性的な快楽に夢中なのだ。夢の中では、その自覚が有る。いつも思い出す。
「あ、っ、ッ、ン、く」
その時、指が増えた。三本の指が、俺の中を広げるようにして、隙間を開けたのが分かる。ビクビクと俺の菊門が収縮しながら、彼の指を締め付けている。開いたり閉じたりを暫く繰り返された後、揃えられた指が、緩慢に抽挿された。
「あ、ああ、ア、あ!!」
指先が前立腺を掠めた。
しかし――今度は、気持ち良い場所に当たらない。
俺は瞳でローラに懇願した。彼は、ニヤリと笑っている。
「どうされたい?」
「あ、あ、いつもの所……突いて、ァん」
俺の口からは、普段からは信じられない甘ったる声が出る。内心では、確かに羞恥を覚えるのだ。子供みたいで、恥ずかしいから。けれど、この夢の中で、俺はローラの前だと素直になれる。本当の俺は、弱虫で子供っぽいのだ。
「だーめ」
「あ、ああ、あ、あ、あ、あ、ダメだ、イきたいっ」
「――もっと太いもので貫かれたいだろ?」
ローラが俺の耳元で囁いた。
その瞬間、俺の頭の中が、その言葉一色に塗り替えられた。
そうだ……はっきりと自覚した……指では足りない。
「あ、あ」
一度そう考えてしまうと、体が震え始めた。太ももを震わせ、俺は必死で吐息する。違う、指が当たらないのではないのだ、指では、足りないのだ。俺の目に、自分でも欲望が灯ったのが分かった。
更に、ローラの指が緩慢な動きになった時、俺はもっと激しく、熱く固く長いものを中で動かされたいという、肉欲が高まった。頭の中が――率直に言って、貫かれる事で染まった。経験など無い。だが、明確に俺は、自分が求めているものを悟っていた。
「挿れて、って、言ってみろ」
「あ、ぁぁあっ、それは……」
だめだ。さすがに、だめだ。いくら、己の体が欲しているとしても。
俺は男なのだ。男が男に貫かれるなど、ありえない。信念として、俺には無理だ。
「それは?」
「うああっ……ゃ、ぁ……なんで、なんで、どうしていつもみたいに……うう」
子供みたいにポロポロと俺は涙した。指でいつもなら、イかせてくれる。
前に限らなかったとしても、それが中でだけであっても、絶頂を感じられる。
俺はそれが欲しくて堪らない。なのに。俺の体は、ローラの指以外の部分を求めているし、ローラも酷い事を言う。
「やぁァ」
「言え。『命令』だ。『素直になれ』」
「お願いだからっ、早く挿れてくれ……――!!! ひ、ひ、あ、あア――!!」
俺は無意識に本心を口走っていた。気づいたら、漏れていた。
それと、ローラの陰茎の先端が俺の中に入ってきたのは、ほぼ同時だった。
「うああ、熱い、熱い、あ、あ、ダメ、体が熔けちゃう、あ、ああ」
ゆっくりとゆっくりと進み、亀頭部分が入りきった。圧倒的な存在感に、内側の壁を抉るように広げられる。俺の中は、絡みつき、彼を離さないとでも言うかのように震え、どんどんローラの自身を飲み込み始めた。
「あ、ああ、あ、ああ」
暴かれている。いいや、違う。俺は、ローラに、この時、支配されていた。
俺の全てが、ローラに奪われていく。それが――どうしようもなく嬉しかった。
衝撃と歓喜で、俺は涙を零す。
「あ、あ、あ」
ローラがじっくりと味わうように、俺の中に進んでくる。その度に、俺の中が開かれていく。全身がその箇所であるかのような錯覚が酷い。入ってくる。ああ……。
全て入りきった時、俺は肩で何度も熱い吐息をした。
寝台に膝を立てた状態の、正常位。僅かに腰を浮かせ、ローラに俺は体を持たれている。思わず俺は、シーツを握った。怖い。これは、未知の行為という意味もあるし、男に穿たれて喜んでいる俺の体が怖いというのもあるが――何よりも、これからもたらされるのだろう、快楽が怖かった。何せ、挿入されただけで……気づいたら、俺は、果てていたのだ。見れば、ローラの腹部を、俺が出したものが汚していた。
「動くぞ」
「あ、あ、うあ」
「ほら」
「ああ!!!」
ローラが腰を揺さぶった。それだけで、俺の満たされた内部の全てが、快楽を訴えた。一つに繋がった箇所から、全身にくまなく気持ち良さが広がっていく。温水のような心地の良い快楽から始まり、それはすぐに熱に変わる。ただ単に入れている楔を揺らされただけで、俺は灼かれた。この状態で、前立腺を突き上げられたら、俺は、どうなってしまうのだろう。漠然とそう考えた時、ゆっくりとローラが前後に動き始めた。
「あ、あ、あ」
引き抜かれる時、俺はそれに合わせて声を出してしまった。
「ン――!!」
そして再び入ってくる時は、嬌声を堪える事に、必死になった。
「ああ、ァ、ぁ」
「どうだ? 初めては?」
「あ、あ……だめだ、熔ける、熔けちゃう」
「――噛むぞ」
「!!!」
不意にローラが、俺の太ももをひと舐めしてから、甘く噛んだ。
「あああっ!」
その瞬間、俺はまた果てた。二度もあっさりと射精したのなど、初めてだ。覚えさせられた空イキだけならば、何度かさせられた事がある。だが、実際に吐精を連続でしたのは、これが初めてだった。だが、俺はもう知っている。ローラに噛まれると、死ぬほど気持ちが良いのだという事を。
「うああっ、ン――!!」
それからローラが抽挿を再開した。ギリギリまで引き抜いては、奥深くまで貫く。それを繰り返してから、時に中に根元まで入れて、俺に形を覚えこませるかのように動きを止める。そうされた時、俺の中は、ビクビクと動く。すると俺には、ローラの形がはっきりと分かる。
「ぁ、ぁ、ァん、ぁン、ンん……っ、ぁ……」
彼の先端が、グッと俺の前立腺を押し上げた。ガクガクと震えながら、俺はきつく目を閉じる。気持ち良い。結果、また俺は射精した。おかしい。いつもは出したくても出せないのに、今日はいやでも出る。
熱く太く長く硬いもののせいなのだろうか……?
分からない。ただローラの肉棒が、俺にとって、彼の指よりも愛おしい存在に変わったのは確かだ。
「ひ、っ、ひぁ、あ、あ、んっ」
「どうだ?」
「あ、あ、やぁ……ヤぁ……ァ」
「何が嫌なんだ?」
「……っ、と。あ……っと、もっと!」
俺はついに懇願した。もう焦がれた体が我慢ならない。激しくグチャグチャに突かれたかった。そう願っていると、動きを止めていたローラがニヤっと笑い――「!!」
俺は目を見開き、絶叫した。
ガンガンと、それまでとは異なり、激しく腰を打ち付け始めたローラ。
逃れようと俺は夢中で、体を退こうとした。だが、できない。ローラが、がっしりと俺の体を掴んでいるからだ。太ももを持ち上げ、何度も激しく貫かれる。肌と肌がぶつかる乾いた音が響いてくる。ダメだ、あ、俺はもうダメだ。
「いやああああああああああ」
「もっと啼け」
「あ、あ、あああ、あ、あっ、あ、あ、だめだ、クる。あ、出る、あ、ああ」
「俺に突かれて果てる感覚、きっちりと覚えておけ」
「あ――!!」
そのまま俺は、一日に四度目の射精という、人生で初めての経験を果たした。
すっかり透明に変わった俺の精液が、鈍い勢いで鈴口から飛び散る。
「や、っ、もう、出来ない」
「まだ、だ。俺は満足してない」
「あ、ああン」
ローラは、俺の呼吸が整うまでの間、少しだけ動きを止めた。
だが、俺の息が少し収まった段階で、再度体を揺さぶった。
頭を振って、俺は泣き叫ぶ。しかし、許されない。
直ぐに快楽自体も復活した。ググっと奥深くまで貫かれる度、全身に快楽が響く。
それから体勢を変えられて、俺は、猫のような姿勢になった。
そして首筋を噛まれながら、奥深くまで穿たれた。
先程までとは、違う角度で開発されていく。
「美味い。童貞をヨガらせながら喰うのは最高だな。しかも、この血。極上だ」
何を言われているのか、最早分からない。ただ、耳の後ろを舐められた瞬間、俺は泣いた。気持ち良すぎた。更に、両手で乳首をこすられながら貫かれた時には、もうわけが分からなくなった。快楽しか、意識できない。
「やぁあ、動いて、動いて、あ、あ、あ」
背中に体重をかけられて、押しつぶされるようにされ、俺は身動きを封じられた。すると、もう出来ないと思っていたはずの体が、再び解放を求めた。俺は無意識に、シーツに自身の陰茎を擦りつけていた。それだけでも気持ち良いが、これではイけない。
「やっぱ、ゆっくり開発してきただけあって、感度も最高になってるな。俺好みだ」
「ああっ、ッ、ぁ、ぁあ、ぁ、ァ」
「泣き顔も良いしな。俺の好みの顔だよ、お前」
「あ、はっ、うあ、あ、あ、ダメだ、あ、あ、出る」
「――もうダメだ。次は、中だけだろ?」
「あ、あ、中だけ、中、あ」
「お前、ドライが好きだもんな?」
「うん、うん。好き、好きだ、あ、大好き」
快楽に涙しながら、俺は何かを口走った。だが、何を口走っているのか、自分でも分からない。ただただ、気持ちが良いのだ。それしか理解できない。
「うあああああ――!!」
その時、思いっきり強くガンガンと前立腺を亀頭で突き上げられ、俺は、空イキした。いつもとは比べ物にならない程の快楽に、頭が、白ではなく青く染まった。その後、ずっと押し上げるようにされ、射精感が持続する。止まらない。だめだ、気が狂う。
「やめてくれ、あ――!! やめて、やめて、あ、あ、あ、死んじゃう!!」
「死なねぇよ」
「ンあああああああああああああああ!!!!!」
「声、ちょっとは抑えろ」
「あ、ああああ、あ、あ、ン――!!!」
永劫にも思える時間、俺の全身は、絶頂に襲われ続けた。漣のように襲ってきた快楽が、ずっと退かず、溜まっていく。なのに精神的にも肉体的にも解放され続けている。汗ばんだ全身が震え、己の体のその反応すら快楽に変わる。その時――中に、ローラの飛沫が飛び散った気配がした。瞬間、俺の理性が完全に飛んだ。彼の精が内壁に触れた瞬間、それまでとは質が違う刺激に全身を染め上げられた。俺の体は、作り替えられた。
「いやあああああああああああああああああ」
「――気持ち良いだろ?」
「あああああああああああああああああああ」
ローラが、再び俺の首筋を噛んだ。俺は、その後の事を覚えていない。
――気づいた時、俺は、ぼんやりとしたまま、寝台に腰掛けていた。
何か、喪失感があった。いつもの通り、白昼夢から醒めただけであるはずなのだが……胸が満たされていた。理由は、不明だ。
「お疲れ様でした」
目の前には、笑顔のローラがいる。人の良さそうな、猫じみた瞳を眺めながら、俺は曖昧に頷いた。
「……ああ。また来る」
そして、いつもと同じ言葉を吐きながら、首を捻った。
普段と同じで、肩こり等は消失している。なのだが、何となく腰に違和感がある。
今日は、ローラのマッサージの調子が、悪かったのだろうか?
まぁ、いくら俺の中の天使といえど、そう言う日も存在するだろう。
俺は気にしない事にして、その日も店を後にした。
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