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―― 第一章 ――
【十一】◆大学時代 ―― 一年 8 ――
しおりを挟む「隣の部屋? そーなん? じゃ、今度創介の家行った時、呼ぼうや。いやねぇ、俺の別のサークルの後輩――二年の子なんやけど、が、噂しとったから」
「噂?」
「イケメンらしいやん」
「あー……そっすね。俺と先輩は、その方向じゃ噂にならないですもんね」
「おい。俺を創介と同じカテゴリに入れるな」
先輩が吹き出した。俺も笑い返しながら、確かに同性の顔面造形にはそこまで注意を払う事は無いが、言われてみれば相馬はイケメンだったなと思い直した。
「その噂の相馬くんは、今日は居るん?」
「基本あいつ、バイトっすよ」
「ふぅん。待ってたら帰ってくる系の?」
「帰ってこない系のバイトってなんですか?」
「夜勤とか。来るんなら、俺も会いたいから、今夜は過去問解説を兼ねて、お前ん家(ち)行こうかなぁ」
「全然来てもらっても大丈夫ですけど、一応連絡しときます? 相馬にも、過去問渡したいし。あいつ多分講義全部出てるから、ノートは大丈夫だと思うけど」
「うん、頼む。いつも何時頃帰ってくるん?」
「さぁ……そこまでは」
「バイトって何してるん?」
「定食屋の厨房って言ってましたけど?」
俺が何気なく答えると、湊川先輩が小さく何度か頷いた。
「料理好きなんは、最高やね」
その後、講義が全て終わってから改めてラウンジで待ち合わせをし、俺と湊川先輩は合流してから、バスのロータリーへと向かった。目的地は、俺の家だ。
「へぇ。意外と綺麗にしてるやん」
「相馬の部屋に比べると天と地ですけどね」
「ふぅん」
湊川先輩は頷くと、居室の絨毯の上に座った。俺は麦茶を差し出す。
「それにしても、テスト……緊張するなぁ」
背の低いテーブルをはさんで対面する位置に腰を下ろし、俺は呟いた。
すると湊川先輩が小さく吹き出した。
「創介は本当、見た目とノリによらず、真面目やね」
「留年とか怖いし」
「滅多にないって。一年の内は。うちの大学の心理学科は、二年の実験――その必修のレポートで以外は留年は、ほぼ無い」
「そういうもんですか?」
「そ。だから安心して良い」
そんなやり取りをしながら、この日は、湊川先輩からテストの攻略について聞いていた。そうしつつ相馬には、『何時にバイト終わる?』『終わったら少し話したい』とメールをしておいた。
二つに折りたたむ形の携帯電話が、近い将来レトロな品になるなんて、この頃は思ってもいなかった。
相馬からの返信があったのは、午後八時半頃の事だった。
「あ。相馬、今から帰ってくるって」
「おお。この部屋寄るって?」
「って、メールでは言ってます」
俺が頷くと、湊川先輩の顔が楽しそうなものに変わった。
――俺の部屋のインターホンが鳴ったのは、それから十五分後の事だった。
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