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―― 第一章 ――

【六】◆大学時代 ―― 一年 4 ――

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 そうして講義が始まった。出欠確認のための、紙のカードが配られる。
 俺は衝撃を受けた。それに名前を記載したら、大部分の学生が行動を出て行ったからだ。三百人はいたであろう学生が、俺と相馬を含めて三十人程度しかその場に残らなかったのである。

「? これ……どうしてみんな帰るんだ?」
「出席した証明をしたら、出て行っても問題ない講義なのかもしれないな」
「面白そうなのにな? 俺、シラバスに書いてあった内容にかなり興味があるんだけど……」

 純粋に疑問に思って俺が首を傾げると、相馬が虚を突かれたような顔をした。

「思ったより灯里は真面目なんだな」
「へ?」
「学部は違うが、俺の高校の先輩もこの大学で、『簡単に単位が取れる講義』として、この講義を俺は聞いた」
「え?」
「勿論、俺は興味があるから選んだ。お前と同じだ。が、サークル関連でもすぐに簡単な講義の情報は出回るだろうと先輩は話していたぞ。正直灯里は、それを聞いてこれを選んで、名前を書いたら帰るタイプに見えた」
「相馬、辛辣すぎないか? 違う。俺は、まだそんなの知らない。唯見に来たのも人生で初めてだし、知り合いもいない。今は相馬がいるけどな」

 ここに来て、俺は再び外見差別に遭遇した。髪は染めるべきではなかったのだろうか。そんなに俺って軽そうなんだろうか。大学デビューに際して、気合を入れすぎてしまったのだろうか。もしかして俺、空回っているのか? と、思案していると、相馬が苦笑した。

「面白そうだよな。俺は、メラニー・クラインの理論には元々興味があったんだ」
「うん。俺はまだ全然知識がないから、これから頑張って勉強してみたい」

 この時の俺の言葉は本音だった。
 ――なお、その後たまに寝過ごして、欠席するようになり、相馬にレジュメを借りる事になる未来も来る。この日の講義後、俺達は連絡先を交換した。


 さて、この日は、午後の六時から、湊川先輩に勧誘された草野球サークルの新入生歓迎会があった。最終参加確認の電話に『行く』と返事をした俺は、待ち合わせの隣駅に時間通りに向かった。

「来よったか」
「本当にエセ関西弁というか、関西弁に失礼ですよね」
「そんなこと言わんでや、創ちゃん」
「創ちゃん誰? 俺?」
「俺の事も、アキちゃんとかでええから」
「湊川先輩のブレなさが俺、ちょっとクセになりそうです」
「新入生の中で一番フレンドリーかつ失礼な君の事、俺もクセになりそうやわぁ」

 結局俺はこの日、なんだかんだで新入生歓迎会を楽しみ、唯見大学草野球サークル『キャットスメル』に加入したのだった。



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