4 / 12
―― 第一章 ――
【四】◆大学時代 ―― 一年 2 ――
しおりを挟む「……」
しかし結果、俺が通りかかっても、誰も声をかけてくれなかった。立ち止まる勇気が出ず、そのまま隣まで歩くと、そちらではフライヤーを渡された。
「新入生! 学科は?」
「心理学科です……」
意気消沈しながら答えると、小説研究会の隣の隣の場所のサークルの先輩が、満面の笑顔になった。
「俺も心理。入ってくれたら、過去問渡しちゃるよ」
「はぁ……」
「野球興味ある?」
「無いですね」
「きっぱりしちょるね。が! 安心して良い。俺も無い。俺ら、今年新設の草野球サークルだけどな、メインは週二のアフターだから! やりたい奴だけ練習して、その後みんなでファミレスで飯食って、居酒屋行くのが主な活動だから!」
「考えておきます」
俺は曖昧に笑い、踵を返した。次こそ、次に通りかかった時こそ、小説研究会に声をかけてもらえるかも知れない。そんな淡い期待を胸に、俺はその列を三往復した。しかし小説研究会の人々は、俺の前後の学生を勧誘する場合があっても、何故か俺には声をかけてくれなかった。
「めっちゃ通るやん。何、自分? 本当は草野球気になってる?」
「……入りたい所があるんですが、勧誘されなくて」
ついに俺は、草野球サークルの先輩の前で項垂れた。すると目を丸くした先輩が、顔を俺が辿っている道筋に向けた。
「ちなみにどこ? 俺、知ってる所なら、話通してやろっか?」
「え? 良いんですか?」
「で、どこなん?」
「小説研究会です」
「あー……そりゃ、まぁ、無理やんな」
「へ?」
「君、言うちゃあ悪いが軽そうに見えるし。あそこ、お堅いサークルで有名だから、まずもって髪染めてたら声かからんわ」
それを聞いて、俺は涙ぐんだ。
「外見で差別があるんですか!?」
「世間は世知辛いんよ。俺だって、ノリ悪そうな新入生には声かけてねぇし」
「……俺、そういうの嫌だ」
「見た目に反して真面目くんなんやね。君、名前は?」
先輩はクスクスと笑っていた。柔らかそうな髪の毛をしていて、その色は狐色だ。
「灯里創介です」
「俺は、湊川晶。心理の三年。サークルの副会長や」
「出身どこです?」
「ん? 唯見だけど?」
「へ? その謎方言口調で?」
「エセ関西弁ってよく言われるわ」
大学は変わっている。俺にそんな印象を最初に抱かせたのは、間違いなくこの湊川先輩だったと思う。
「とりあえず、新歓だけでも来ちゃいなよ。サークルは、ゆっくり考えればいいし、掛け持ちしたっていいんやし」
「はぁ……」
「あんまり深く考えんで、楽しく新歓だけおいで」
湊川先輩はそう言うと、俺にフライヤーをバサっと押し付けた。反射的に受け取ると、楽しそうな笑顔になった。
「さ、配るの手伝って」
「は?」
「君なら行ける!」
「ま、待って!? まだ入るなんて――」
「大丈夫。あ、あと連絡先を教えてくれ」
こうしてこの日、俺はそのまま流れで連絡先を交換した後、新入生歓迎会参加名簿に名前を記入し、そして何故なのかフライヤーの配布を手伝わされた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。
春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。
それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。
にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。
思い出を売った女
志波 連
ライト文芸
結婚して三年、あれほど愛していると言っていた夫の浮気を知った裕子。
それでもいつかは戻って来ることを信じて耐えることを決意するも、浮気相手からの執拗な嫌がらせに心が折れてしまい、離婚届を置いて姿を消した。
浮気を後悔した孝志は裕子を探すが、痕跡さえ見つけられない。
浮気相手が妊娠し、子供のために再婚したが上手くいくはずもなかった。
全てに疲弊した孝志は故郷に戻る。
ある日、子供を連れて出掛けた海辺の公園でかつての妻に再会する。
あの頃のように明るい笑顔を浮かべる裕子に、孝志は二度目の一目惚れをした。
R15は保険です
他サイトでも公開しています
表紙は写真ACより引用しました
【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる