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―― 第一章 ――
【一】◆◇◆ 現在 1 ◆◇◆
しおりを挟む唯見公園の桜は、どこか味気ない。花びらが白く見える。ひらひらと舞い落ちてくる光景は幻想的なのかもしれないが、俺の心には響いてこない。あるいはそれは、どこか白く見える嘘くさい青空が原因なのかもしれない。凸凹した幹を一瞥し、俺は嘆息した。
周囲には花見客がいる。ここは唯見市が開放しているお花見スポットだ。
平成二十六年、四月六日。
今日は日曜日。まだ朝の十時だ。
「ボケっと立っていないで、レジャーシートを広げてくれ」
傍らで溜息をつく気配を感じたので、俺は顔ごと向き直る。そこには、相馬匡が立っていた。俺達は、どちらも二十七歳だ。お互いに寅年。寅年は、生涯賃金が、干支の中で一番低いなんていう都市伝説を聞いた記憶がある。
「はいはい」
顎で頷き、俺は言われた通りにした。百円ショップで昨日購入したカラフルな断熱シートは、男二人で花見をするにはちょっとファンシーすぎるような気もする。そもそも花見なんて、大学時代以来だ。俺と相馬は、同じ大学で同じ学科、同じ必修クラスで、サークルも同じだった。
その後紆余曲折を経て、現在俺達はルームシェアをしている。慢性的な諭吉欠乏症の俺と、ケチな相馬の利害が一致した結果だ。
「灯里、ほら」
腰を下ろした相馬が、俺の前に紙皿と割り箸を置いた。それから相馬は、三段重ねの重箱を広げていく。相馬は料理が好きらしい。だが俺にはちょっとよく分からない。一円でも安い食材を購入するために、店をハシゴする相馬の事が、謎すぎる。俺がうっかり電気をつけっぱなしで寝ようものなら、翌日はガミガミと怒る。何気なく俺がお取り寄せをして、俺宛に美味しいイクラが届いたりした日には、文句を言ってくる(だが、一緒に食べるのも常だ)。
「おい。なんでそんなに不機嫌そうなんだ?」
「何が悲しくて、男二人で花見なんて……女の子成分が足りないだろ……」
素直に俺がぼやくと、相馬が呆れた顔付きになった。それから発泡酒を取り出すと、一缶俺に渡した。俺の気分は一気に浮上した。我ながら、俺は大酒飲みだと思う。
「これ、これだよ。待ってたよ、俺は昼からの酒を!」
「折角なんだから、料理も食べろよ?」
「俺、酒入ってるとあんまり食欲が……あ、でも、その春巻き美味しそうだな」
「菜の花の春巻きだ。食べないといつも言っているが、体を壊すぞ? 折角奮発してうなぎのちらし寿司も用意したんだから、完食しろ」
相馬が苦笑している。相馬はケチなだけでなく、口うるさい部分もある。ただ、決して悪い奴ではない。大学入学時の十八歳から一緒にいるから、もうすぐ出会って十年だ。ノリが合うわけでもなければ、性格が合うという事もなく、趣味が同じというわけでもない。だが不思議と、相馬のそばは、居心地が悪くない。慣れもあるのかもしれないが。
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