上 下
12 / 14
―― 第一章 ――

【十二】自己紹介と入学後テスト

しおりを挟む








 こうして教科書類の配布後、自己紹介が始まった。魔法学園といえども、新学期の自己紹介は過去に歩んできた義務教育時の小中学校と大差ないなと榛名は考える。たまに得意な魔法について言及する生徒がいる程度だ。高等部から魔法は本格的に学ぶようだが、この春休みに予習をしてきたり、幼少時から実家で習ってきた生徒は多いらしい。

「――明日葉礼音です。中等部から英国校に進学し、今回高等部から交換留学生として戻ってきました。どうぞよろしくお願いします」

 試験で一緒だった明日葉が挨拶をし、控えめに微笑すると、教室内の視線が集中した。榛名は一人一人を見ていたが、それまではチラチラと榛名や政宗、宮花といった後方の席を見ていた生徒の多くも、視線を集中させた状態だ。

 明日葉は色素の薄い髪を揺らすと、静かに着席する。
 美少年と評するに相応しい外見の持ち主というのは、明日葉のような存在ではないのだろうかと、漠然と榛名は考えていた。するとその時、不意に明日葉が榛名を見た。その瞳の奥が冷たく見えて、思わず榛名は息を飲んだが、すぐに微笑を向けられたため、気のせいだったのだろうかと首を捻る。

 その後、政宗の番が来た。

「サロン・レクス会長の政宗だ。次期政宗家当主でもある。これ以上の説明は、何処かの誰かのような世間知らずでもなければ必要ないだろうが、俺に逆らったらこの学園では生きていけないとだけ同じクラスになったよしみで先に伝えておく。以上だ」

 政宗は、あきらかに榛名を見ながらそういった。政宗の目を見て自己紹介を聞いていた榛名は、唇を尖らせそうになったが、次に自分の番が来たため立ち上がる。

「はじめまして。世間知らずの外部編入生の榛名彩月です。若輩者ですが現在調律委員会の委員長になったので、どうぞ騒ぎを起こさないように皆さんが過ごしてくれることを期待します。特に初対面でいきなりピアニッシモからゲニウスを奪取しようとした、何処かの誰かのような愚行を犯した場合、それなりの処罰をするため覚悟してくれ」

 榛名も堂々と政宗を見て述べた。すると政宗が派手に咳き込んだ。
 教室には奇妙な空気が漂った。

「二人って仲が良いのか悪いのかよくわかんないなぁ」

 するとのほほんとそう述べてから宮花が拍手をしたため、それが教室内に広がり、榛名の自己紹介が無事に終わった。これでクラス全員だったため、続いて学級委員長が選出されることになった。

「やりたい奴はいるか?」

 担任の先生の言葉に、窓際の一番前の席にいた生徒が手を挙げた。

「はい。中等部でも一組の学級委員長をしていたので、良かったらやらせて下さい」
「そうか、五島ごとう。じゃ、頼んだぞ」

 手を挙げた五島という生徒の名を里原先生が呼び、他に立候補者も反対意見も出なかったので、学級委員長は五島に決まった。

「じゃ、二時間目と三時間目は入学後テストだから、予習でもしつつ、あとは親睦を深めておくように。なにかあったら、俺はここに座ってるから声をかけてくれていいぞ」

 里原先生がそう言うと、その場の空気が少し変化した。まるで休み時間のようなものに変わる。教科書類の内、不要物を鞄や机の中にしまってから、テスト勉強をしようかと、榛名は漠然と考える。五教科と魔法科目らしいが、魔法科目の方は自分でも何故解けるのか不思議で祖父のおかげとしか言いようがないため、正直まだまだ自信がない。

「真面目だなぁ、調律委員会の委員長様は」
「? ああ」

 政宗に声をかけられたので、顔を向けて榛名は頷く。

「正直まだ魔法科目が不安だらけだ」
「ま、真面目に答えるんだな、そこは。本当真面目だな」
「? お前は予習はしないのか?」
「この程度、初等科の途中には全て学び終えてる。予習復習すら必要無ぇよ」
「そうか」

 確かに外部編入時に見た問題に類似のものならば、幻想文学として暗記した本は榛名も小学生の頃に読んだので、政宗の言葉はありえるなと榛名は思った。

「安心しろ、俺は次こそお前に完全勝利して一位を独占する。せいぜい俺に負けないように勉強することだな」
「……勝ち負けとは思わないが、なるべく成績を維持したいのは本音だ」

 そうでなければ、現在の学費免除という状態ではなくなると考えられる。政宗との対決は理由ではなく、この学園に在籍するために必要な事柄として、榛名は成績を維持する必要があった。眞田の言葉が思い出される。

「愁傷な事だな」

 政宗の退屈そうな声を聞きつつ、榛名は参考書を開いた。しかし祖父の書いた小説だと思っていたものがそのまま載っている状態なので、勉強している気にならない。

 五教科の方は自信があるため特に見返す必要も感じないままで、榛名はその時間は勉強に充てて過ごした。


 ――こうして、二時間目と三時間目には、テストを受けた。
 幸い分からない問題がなかった事に安堵しながら、三時間目の終了を告げる鐘が鳴る中、榛名は前の席の高橋に答案用紙を渡した。

 この学園は、朝の自習時間が無く、入学式もその時間帯に行われた。
 それを除いて午前中は三時間の講義があるので、本日の午前中はこれで終わりだ。

「おい」

 昼食をどうしようかと榛名が考えていると、政宗に声をかけられた。

「なんだ?」
「お前は飯はどうするんだ?」
「今まさにそれを考えていたんだ」

 素直に榛名が答えると、宮花が振り返った。

「あー、じゃあ四人で学食行かない? 高橋くんとも親睦を深めたいし」
「えっ!? い、いえ……ぼ、僕は……その……お、お、恐れ多いので……!」
「なんでぇ? 俺の名前適当に書いて良いよぉ? 俺の名前は書いても恋人扱いとかされないから怯えなくておっけぇだから。俺は高橋くんともっとお話したいんだけどなぁ」
「えっ」

 隣席の高橋が完全に青ざめている。クラスの視線の半分ほどは高橋と宮花に集中している。何故高橋はそのように嫌そうなのだろうかと、榛名は首を傾げる。

「よかったら僕もご一緒させてもらえませんか?」

 そこへ声がかかった。見れば明日葉が立っていた。
 微笑しているのだが、それがまた儚いように見える。政宗を一瞥した後、明日葉は榛名を見た。榛名は視線を帰した後、小さく頷く。

「俺は道も不慣れだから、行くとしたら連れて行ってもらうかたちだが、それでよければ構わないが」

 そう答えてから榛名は政宗へと視線を向けた。すると政宗が顎で頷いた。

「おう。この俺様に案内させるなんて良い度胸だが、と、透が折角誘ってやってるからな。案内してやる。じゃ、行くか、五人で」

 すると高橋が泣きそうな顔をより真っ青に変えた。

「行こう行こう!」

 このようにして、榛名は、政宗と宮花と高橋と明日葉と五人で学食へと向かうことになったのだった。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

異世界に召喚され生活してるのだが、仕事のたびに元カレと会うのツラい

だいず
BL
平凡な生活を送っていた主人公、宇久田冬晴は、ある日異世界に召喚される。「転移者」となった冬晴の仕事は、魔女の予言を授かることだった。慣れない生活に戸惑う冬晴だったが、そんな冬晴を支える人物が現れる。グレンノルト・シルヴェスター、国の騎士団で団長を務める彼は、何も知らない冬晴に、世界のこと、国のこと、様々なことを教えてくれた。そんなグレンノルトに冬晴は次第に惹かれていき___ 1度は愛し合った2人が過去のしがらみを断ち切り、再び結ばれるまでの話。 ※設定上2人が仲良くなるまで時間がかかります…でもちゃんとハッピーエンドです!

なんで俺の周りはイケメン高身長が多いんだ!!!!

柑橘
BL
王道詰め合わせ。 ジャンルをお確かめの上お進み下さい。 7/7以降、サブストーリー(土谷虹の隣は決まってる!!!!)を公開しました!!読んでいただけると嬉しいです! ※目線が度々変わります。 ※登場人物の紹介が途中から増えるかもです。 ※火曜日20:00  金曜日19:00  日曜日17:00更新

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

BLゲーに転生!!やったーーー!しかし......

∞輪廻∞
BL
BLゲーの悪役に転生した!!!よっしゃーーーー!!!やったーーー!! けど、、なんで、、、 ヒロイン含めてなんで攻略対象達から俺、好かれてるんだ?!? ヒロイン!! 通常ルートに戻れ!!! ちゃんとヒロインもヒロイン(?)しろーー!!! 攻略対象も! ヒロインに行っとけ!!! 俺は、観セ(ゴホッ!!ゴホッ!ゴホゴホッ!! 俺はエロのスチルを見てグフグフ言うのが好きなんだよぉーー!!!( ̄^ ̄゜) 誰かーーー!!へるぷみぃー!!! この、悪役令息 無自覚・天然!!

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

処理中です...