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―― 第一章 ――
【十二】自己紹介と入学後テスト
しおりを挟むこうして教科書類の配布後、自己紹介が始まった。魔法学園といえども、新学期の自己紹介は過去に歩んできた義務教育時の小中学校と大差ないなと榛名は考える。たまに得意な魔法について言及する生徒がいる程度だ。高等部から魔法は本格的に学ぶようだが、この春休みに予習をしてきたり、幼少時から実家で習ってきた生徒は多いらしい。
「――明日葉礼音です。中等部から英国校に進学し、今回高等部から交換留学生として戻ってきました。どうぞよろしくお願いします」
試験で一緒だった明日葉が挨拶をし、控えめに微笑すると、教室内の視線が集中した。榛名は一人一人を見ていたが、それまではチラチラと榛名や政宗、宮花といった後方の席を見ていた生徒の多くも、視線を集中させた状態だ。
明日葉は色素の薄い髪を揺らすと、静かに着席する。
美少年と評するに相応しい外見の持ち主というのは、明日葉のような存在ではないのだろうかと、漠然と榛名は考えていた。するとその時、不意に明日葉が榛名を見た。その瞳の奥が冷たく見えて、思わず榛名は息を飲んだが、すぐに微笑を向けられたため、気のせいだったのだろうかと首を捻る。
その後、政宗の番が来た。
「サロン・レクス会長の政宗だ。次期政宗家当主でもある。これ以上の説明は、何処かの誰かのような世間知らずでもなければ必要ないだろうが、俺に逆らったらこの学園では生きていけないとだけ同じクラスになったよしみで先に伝えておく。以上だ」
政宗は、あきらかに榛名を見ながらそういった。政宗の目を見て自己紹介を聞いていた榛名は、唇を尖らせそうになったが、次に自分の番が来たため立ち上がる。
「はじめまして。世間知らずの外部編入生の榛名彩月です。若輩者ですが現在調律委員会の委員長になったので、どうぞ騒ぎを起こさないように皆さんが過ごしてくれることを期待します。特に初対面でいきなりピアニッシモからゲニウスを奪取しようとした、何処かの誰かのような愚行を犯した場合、それなりの処罰をするため覚悟してくれ」
榛名も堂々と政宗を見て述べた。すると政宗が派手に咳き込んだ。
教室には奇妙な空気が漂った。
「二人って仲が良いのか悪いのかよくわかんないなぁ」
するとのほほんとそう述べてから宮花が拍手をしたため、それが教室内に広がり、榛名の自己紹介が無事に終わった。これでクラス全員だったため、続いて学級委員長が選出されることになった。
「やりたい奴はいるか?」
担任の先生の言葉に、窓際の一番前の席にいた生徒が手を挙げた。
「はい。中等部でも一組の学級委員長をしていたので、良かったらやらせて下さい」
「そうか、五島。じゃ、頼んだぞ」
手を挙げた五島という生徒の名を里原先生が呼び、他に立候補者も反対意見も出なかったので、学級委員長は五島に決まった。
「じゃ、二時間目と三時間目は入学後テストだから、予習でもしつつ、あとは親睦を深めておくように。なにかあったら、俺はここに座ってるから声をかけてくれていいぞ」
里原先生がそう言うと、その場の空気が少し変化した。まるで休み時間のようなものに変わる。教科書類の内、不要物を鞄や机の中にしまってから、テスト勉強をしようかと、榛名は漠然と考える。五教科と魔法科目らしいが、魔法科目の方は自分でも何故解けるのか不思議で祖父のおかげとしか言いようがないため、正直まだまだ自信がない。
「真面目だなぁ、調律委員会の委員長様は」
「? ああ」
政宗に声をかけられたので、顔を向けて榛名は頷く。
「正直まだ魔法科目が不安だらけだ」
「ま、真面目に答えるんだな、そこは。本当真面目だな」
「? お前は予習はしないのか?」
「この程度、初等科の途中には全て学び終えてる。予習復習すら必要無ぇよ」
「そうか」
確かに外部編入時に見た問題に類似のものならば、幻想文学として暗記した本は榛名も小学生の頃に読んだので、政宗の言葉はありえるなと榛名は思った。
「安心しろ、俺は次こそお前に完全勝利して一位を独占する。せいぜい俺に負けないように勉強することだな」
「……勝ち負けとは思わないが、なるべく成績を維持したいのは本音だ」
そうでなければ、現在の学費免除という状態ではなくなると考えられる。政宗との対決は理由ではなく、この学園に在籍するために必要な事柄として、榛名は成績を維持する必要があった。眞田の言葉が思い出される。
「愁傷な事だな」
政宗の退屈そうな声を聞きつつ、榛名は参考書を開いた。しかし祖父の書いた小説だと思っていたものがそのまま載っている状態なので、勉強している気にならない。
五教科の方は自信があるため特に見返す必要も感じないままで、榛名はその時間は勉強に充てて過ごした。
――こうして、二時間目と三時間目には、テストを受けた。
幸い分からない問題がなかった事に安堵しながら、三時間目の終了を告げる鐘が鳴る中、榛名は前の席の高橋に答案用紙を渡した。
この学園は、朝の自習時間が無く、入学式もその時間帯に行われた。
それを除いて午前中は三時間の講義があるので、本日の午前中はこれで終わりだ。
「おい」
昼食をどうしようかと榛名が考えていると、政宗に声をかけられた。
「なんだ?」
「お前は飯はどうするんだ?」
「今まさにそれを考えていたんだ」
素直に榛名が答えると、宮花が振り返った。
「あー、じゃあ四人で学食行かない? 高橋くんとも親睦を深めたいし」
「えっ!? い、いえ……ぼ、僕は……その……お、お、恐れ多いので……!」
「なんでぇ? 俺の名前適当に書いて良いよぉ? 俺の名前は書いても恋人扱いとかされないから怯えなくておっけぇだから。俺は高橋くんともっとお話したいんだけどなぁ」
「えっ」
隣席の高橋が完全に青ざめている。クラスの視線の半分ほどは高橋と宮花に集中している。何故高橋はそのように嫌そうなのだろうかと、榛名は首を傾げる。
「よかったら僕もご一緒させてもらえませんか?」
そこへ声がかかった。見れば明日葉が立っていた。
微笑しているのだが、それがまた儚いように見える。政宗を一瞥した後、明日葉は榛名を見た。榛名は視線を帰した後、小さく頷く。
「俺は道も不慣れだから、行くとしたら連れて行ってもらうかたちだが、それでよければ構わないが」
そう答えてから榛名は政宗へと視線を向けた。すると政宗が顎で頷いた。
「おう。この俺様に案内させるなんて良い度胸だが、と、透が折角誘ってやってるからな。案内してやる。じゃ、行くか、五人で」
すると高橋が泣きそうな顔をより真っ青に変えた。
「行こう行こう!」
このようにして、榛名は、政宗と宮花と高橋と明日葉と五人で学食へと向かうことになったのだった。
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