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御遼神社の狐と神様
【6】新南津市心霊協会
しおりを挟む翌日――まず向かった先は、新南津市心霊協会である。
地域振興センターの四階にある心霊協会へ行くと、それなりに混雑していた。新南津市においては、既に公的機関として認識されている。新しく除霊業を始める個人事業主達が登録に来ていたり、更新に来ていたりもするし、依頼人の列もある。
昼威はそれを一瞥してから、奥の豪奢なソファに座る心霊協会の役員達を見た。心霊協会には、数人の役員がいて、それが実質の首脳部だ。昼威が会いに来たのは、その一人である、玲瓏院縲である。
この土地で、もっとも霊能力が強い一族とされる、玲瓏院家の現当主だ。
そうは言っても、三十四歳の縲は、昼威と三歳しか変わらない。本日は萌黄色の紋付姿の縲を見て、昼威は腕を組んだ。藍円寺は、玲瓏院の分家である。
本家の当主は、金髪に緑色の瞳で、寧ろ昼威よりも若くさえ見える。よい歳をしてすごい色彩だなと時折感じるが、不思議と自然な色合いに思えるから不思議だ。
眺めていると、縲が昼威に気づいた。
「あれ? 昼威先生。どうかしたの? 珍しいね」
そう言うと縲が、微笑して手招きをした。小さく会釈をしてから、昼威は歩み寄る。
「ちょっと聞きたい事が」
「何? あー、ちょっと俺の役員室に行こうか」
昼威がチラリと奥の部屋へ視線を向けると、縲がそれを見てとり促した。
こうして二人で、奥の小部屋に入る。
中には、豪奢なソファセットと、本棚がある。
「何か飲む?」
カチリと鍵をかけてから縲が尋ねると、昼威が答えた。
「お構いなく」
「じゃあ緑茶で」
本家と分家の力関係が大きい土地であるから、昼威は一応低姿勢を維持している。しかし別段、縲が威張り散らしているというわけでもない。
「ところで縲さん」
お茶を受け取ってすぐに、昼威は切り出す事にした。
「呪殺屋――呪殺会社、あるいは別れさせ屋に心当たりはありますか?」
単刀直入に昼威が聞くと、和装姿の縲が腕を組んだ。
「昼威先生は、どこでそれを聞いたの?」
「ちょっと、まぁ」
昼威が適当に濁すと、縲は追求はせずに、ため息をついてから続けた。
「――今ね、心霊協会でも問題視しているんだ。新南津市でも何件か問題となっていて……ただ、あの別れさせ屋こと六条総合サポートは、昼威先生が言った通りで、代表取締役が、かなり力が強い呪殺師でね」
六条総合サポートという名前を、昼威は脳裏でメモした。
「代々呪殺で食べている家柄、六条家の跡取りで、別れさせ屋業は彼個人が行っているけれど、後ろには関東の政財界にも顔が利く大企業がついていてね。御曹司だから……迂闊に排除すれば、新南津市があちらとも揉めることになるんだ」
それを聞いて、昼威は首を傾げた。
「御曹司……? それは、父方か母方ですか?」
「うん。父方だね」
「母親は――新南津市にゆかりがある方だったりしますか?」
「さぁ? そうなの? 俺は聞いた事がないけど。逆に何か知っているのなら、教えてもらえる?」
「――もし何か分かったら、ご連絡します。念のため、その呪殺屋の名前を聞いても?」
昼威の言葉に、縲が頷いた。
「六条彼方(ロクジョウカナタ)という名前みたいだ。だけど、呪い返しを防ぐために、六条という名前自体が、源氏物語の生霊からとって、代々名乗っているだけみたいだから、本当の名前はわからない」
それを聞いて、昼威はしっかりと覚えてから、お茶を飲み干した。
お礼を告げて立ち上がり、心霊協会を後にする。
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