図書室ピエロの噂

猫宮乾

文字の大きさ
上 下
62 / 101
【SeasonⅡ】―― 第一章:生首ドリブル ――

【061】花子さんとの再会

しおりを挟む

「――ということで、見てきたけど、生首ドリブルはいなかったんだ」

 次の日の朝、ぼくはみんなの前で七海さんに言った。すると七海さんは唇をとがらせた。これでは七海さんがうそつきみたいになってしまうけど、それは心の中であやまる。

「で、でもね? そのうわさはあるみたいで、もしも生首ドリブルにあって、『一緒に遊ぼう』といわれたら、逃げたら大丈夫だって聞いたよ!」
「聞いたって、誰に?」
「そ、その……都市伝説にくわしい子に!」

 道家くんに聞いたんだから、うそではない。

「だから七海さんは、大丈夫。怖かったかもしれないけど、なにも起きないよ」
「そっか……それならいいんだけど」

 何度かうなずいて、七海ちゃんもなっとくしてくれたようだった。

 そのまま時間は流れていき、本日も放課後になった。
 今日は椿ちゃんが休みだったんだけど、本当は哀名と椿ちゃんで、トイレの花子さんを調べにいく予定だったみたいで、代わりにぼくと道家くんがついていくことになった。ぼくと哀名は前にも会っているから、じつざいしてると分かってる。逆に椿ちゃんが見たらおどいたかもしれないから、いなくてよかったのかもしれない。

 エアコンのない廃校舎の中は暑い。
 ぼく達は土足で進み、四階の女子トイレに向かった。そして、時計を見てから声をかける。

「花子さん、あーそびーましょー!」

 ぼくが言うと、トイレのとびらが、ギギギと音を立てて開いた。赤いスカートをはいている、おかっぱ頭の花子さんが顔を出した。

「また来たんだ」
「久しぶりね」

 哀名はそう言って、ポケットに触れている。中には護符があるのだと思う。
 花子さんは、道家くんを見た。

「あら。ピエロが見つかってよかったね」

 どうやら前の話を覚えていてくれたみたいだ。ぼくは笑顔をうかべた。

「うん。探していたときは、協力してくれてありがとう」
「ううん。一緒にあそぶ仲間は多い方が楽しいからね!」

 それから花子さんはあらためて道家くんを見た。

「おかえり、図書室ピエロ」
「――うん。ただいま」

 道家くんは、ちょっとだけ嬉しそうに見えた。

「あ、今日はね、遊びに来たんじゃなくて、学校の七不思議を調べているから、話を聞きに来たんだよ」

 そういえば、水間さんが前に、都市伝説のお化けには独自のネットワークがあると話していたけど、学校の都市伝説のお化け達もやっぱりそうなんだなってぼくは思い出す。ある意味それは、お友達みたいなものなんじゃないかなと考えた。

「あのね、花子さんがいたっていったら、みんなびっくりして怖がると思うから、花子さんのことは、歴史をまとめようと思ってるんだ。花子さんは、ぼくのお父さんの頃もお兄ちゃんの頃もいたんでしょう? ずっといるから、いろいろ教えてもらえないかなって思ってさ」

 ぼくの言葉に、こくりと花子さんがうなずいた。

「ええ、いいわ。けど、歴史かぁ。いつの時代も、小学校のみんなは、私がいるかどうかを肝試しに見に来るけど、あんまり変化はないし、あそんでくれる子はほとんどいないかなぁ」
「花子さんは、いつからどうしてここにいるの? 私はそれを聞いてみたい」

 哀名がいうと、花子さんが考えるような顔をした。
 ぼくはメモを取り出す。聞いたことを書いておくためだ。

「私ももともとは小学生だったの。今とは違う頃で、ここにあったトイレよりも、もっともっと古いトイレで、ぼっとんべんじょって呼ばれていたの。中のものは、バキュームカーでくみ取っていたんだけど、私ね、トイレの中に落っこちちゃったの。そうしたら、気がついたら死んじゃってたみたいで、私はこの場所にいたの。それから、ここから出られなくなって。みんなに声をかけても、だれも気づいてくれないの。4時44分を除いては」

 花子さんの顔が悲しそうに変わった。

「だからその時間に声をかけていたら、学校の七不思議になったみたい。私みたいなのを、 地縛霊しばくれいっていうらしいよ」
「そうなんだ……」

 トイレの中に落ちて死んでしまうなんて、とっても怖かったとおもう。
 それに誰にも気づいてもらえなかったら、どんなに寂しいんだろう。

「これからは、ぼく達たまに遊びに来るよ」
「嬉しい! あなた達なら、一緒に遊んでも、ちゃんと帰してあげる」
「キミじゃぁボクには勝てないしね」
「ピエロはうるさい!」

 そんな話をし、ぼくはメモをとってから、花子さんにバイバイと手を振って、廃校舎をあとにした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...