図書室ピエロの噂

猫宮乾

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【SeasonⅠ】―― 第八章:血を吸う桜 ――

【043】決まらない自由研究の課題

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 夏休みが始まって二週間。
 ぼくは早めに宿題をかたづけることにして、リビングでタブレット端末を見ていた。自由研究の資料になりそうなものを検索している。

「うーん」

 なにをするかが決まらない。悩んでいると、家の電話がなった。亮にいちゃんがキッチンから顔を出して、電話を取る。

「はい、楠谷ですが――……っ、そうですか……いえ……いいえ、俺は……っ……はい。では、一度だけ……ええ、はい」

 哀名よりも冷たい顔で電話をしていた亮にいちゃんを見て、ぼくは心配になった。見守っていると、電話を置いた亮にいちゃんがぼくを見た。そして無理に笑ったような顔をした。

「瑛」
「なに?」
「俺は今から出かけてくる。今夜は戻らないかもしれない」
「う、うん」
「一人で大丈夫か?」
「ぼくは大丈夫だけど……」

 亮にいちゃんのほうが、大丈夫ではなさそうな顔に見えた。

「きちんと留守番してろよ? な?」

 そう言うと亮にいちゃんが自分の部屋に行った。そして着替えて出てきた。

「いいか? 戸じまりはきちんとしろよ? それと、知らない人にはついていっちゃダメだからな」

 亮にいちゃんはぼくに告げると、玄関から出て行った。まだ朝の九時だ。どこへ行ったんだろう? 考えつつ、ぼくは自由研究と向き合った。なにかの観察にしようかと思うけど、ぼくの家に生き物はいない。

 そんなことをしているとお昼になった。
 冷蔵庫には亮にいちゃんの作り置きがたくさん入っているから、全然ご飯には困らない。ぼくはご飯を食べてから、うで時計を見た。

「ちょっと出かけてこようかな。気分転換、大切だよね」

 一人うなずいて、ぼくは出かけることにした。
 ゆっくりと通学路を歩いて行き、神社に通じる石段を見る。
 すると透くんがいた。ぼくはテーマパークのことを思い出して、話を聞こうと、走りとった。

「透くん!」
「おはよ、瑛。どうしたの?」
「ねぇねぇ、テーマパークにいたよね? 弥生ハイランドパーク!」
「――ああ。あの日は暑かったね」
「亮にいちゃんと知り合いだったの?」
「気になる?」
「うん」
「知りたかったら、俺の家に遊びにおいで」

 それを聞いて、ぼくは迷った。知らない人の家には、ついていってはダメだと言われている。だけど、透くんのことは知っている。大丈夫だろうか? なにより、ぼくは亮にいちゃんのことが気になるし、透くんについていくことに決めた。

「行く!」
「いつくる? 俺は今からでもいいけど。むしろ、今がいいかもね」
「じゃあ、今行く! 連れて行って」
「いいよ」

 石段から立ち上がった透くんが降りてきて、ゆっくりと歩きはじめたので、ぼくも隣に並んで歩くことにした。


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