43 / 101
【SeasonⅠ】―― 第八章:血を吸う桜 ――
【043】決まらない自由研究の課題
しおりを挟む夏休みが始まって二週間。
ぼくは早めに宿題をかたづけることにして、リビングでタブレット端末を見ていた。自由研究の資料になりそうなものを検索している。
「うーん」
なにをするかが決まらない。悩んでいると、家の電話がなった。亮にいちゃんがキッチンから顔を出して、電話を取る。
「はい、楠谷ですが――……っ、そうですか……いえ……いいえ、俺は……っ……はい。では、一度だけ……ええ、はい」
哀名よりも冷たい顔で電話をしていた亮にいちゃんを見て、ぼくは心配になった。見守っていると、電話を置いた亮にいちゃんがぼくを見た。そして無理に笑ったような顔をした。
「瑛」
「なに?」
「俺は今から出かけてくる。今夜は戻らないかもしれない」
「う、うん」
「一人で大丈夫か?」
「ぼくは大丈夫だけど……」
亮にいちゃんのほうが、大丈夫ではなさそうな顔に見えた。
「きちんと留守番してろよ? な?」
そう言うと亮にいちゃんが自分の部屋に行った。そして着替えて出てきた。
「いいか? 戸じまりはきちんとしろよ? それと、知らない人にはついていっちゃダメだからな」
亮にいちゃんはぼくに告げると、玄関から出て行った。まだ朝の九時だ。どこへ行ったんだろう? 考えつつ、ぼくは自由研究と向き合った。なにかの観察にしようかと思うけど、ぼくの家に生き物はいない。
そんなことをしているとお昼になった。
冷蔵庫には亮にいちゃんの作り置きがたくさん入っているから、全然ご飯には困らない。ぼくはご飯を食べてから、うで時計を見た。
「ちょっと出かけてこようかな。気分転換、大切だよね」
一人うなずいて、ぼくは出かけることにした。
ゆっくりと通学路を歩いて行き、神社に通じる石段を見る。
すると透くんがいた。ぼくはテーマパークのことを思い出して、話を聞こうと、走りとった。
「透くん!」
「おはよ、瑛。どうしたの?」
「ねぇねぇ、テーマパークにいたよね? 弥生ハイランドパーク!」
「――ああ。あの日は暑かったね」
「亮にいちゃんと知り合いだったの?」
「気になる?」
「うん」
「知りたかったら、俺の家に遊びにおいで」
それを聞いて、ぼくは迷った。知らない人の家には、ついていってはダメだと言われている。だけど、透くんのことは知っている。大丈夫だろうか? なにより、ぼくは亮にいちゃんのことが気になるし、透くんについていくことに決めた。
「行く!」
「いつくる? 俺は今からでもいいけど。むしろ、今がいいかもね」
「じゃあ、今行く! 連れて行って」
「いいよ」
石段から立ち上がった透くんが降りてきて、ゆっくりと歩きはじめたので、ぼくも隣に並んで歩くことにした。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる