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【SeasonⅠ】―― 第一章:まっかっかさん ――
【014】まっかっかさん
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ぼくは思わず、水間さんの服をつかむ。水間さんは、にらみつけるように歩いてくる子を見ている。しばらくして、ぼくは梅雨の頃にも顔を合わせた、まっかっかさんの姿をしっかりと見た。
「まっかっかさん」
水間さんが、ぽつりと名を呼ぶ。立ち止まったまっかっかさんが、少しだけカサを持ち上げた。
「聞きたいことがある」
赤いものを持っていると死なないのか聞くんだと、ぼくは思って見守る。
「――図書室ピエロの居場所を知らないか?」
しかし予想外の言葉が出てきたから、ぼくは目を丸くした。パチパチと瞬きをする。
「……」
まっかっかさんは、見上げるように水間さんを見ている。
青白いはだは、お化けみたいだ。実際に、お化けなのかもしれないけど。
「怪異同士のネットワークが存在することはつかんでいる。このきさらぎ市では、怪異は独自に発展しているのも分かっている。教えてくれ。図書室ピエロは何処にいる?」
水間さんは早口で、その内容は、ぼくには難しかった。
ただ気迫がすごくて、それだけ真剣なのは分かる。
「……私は知らない」
そのとき、消えてしまいそうなくらい小さな声がした。高い声だった。ただ女の子の声にも男の子の声にも聞こえる、不思議な声だった。
「『は』、か。では、どの怪異ならば、知っている? どの都市伝説の怪異ならば、図書室ピエロについて詳しい?」
「……トンカラトンに聞いてみたら? 彼はおしゃべりだから」
「トンカラトンだな。分かった。礼を言う」
水間さんがそう言って歩き出そうとしたので、ぼくはあわてた。目的は、あかいもので助かるのかどうかを確かめることのはずだ。
「ね、ねぇ! まっかっかさんは、赤いものを持ってる相手は、見逃すの?」
「……ええ」
「赤が好きなの?」
「そうね。私が死んだ時に飛び散った血が、同じ赤だから目立たなくなるから」
「そ、そう……」
なんだか、聞いてはいけないことを聞いてしまった気がした。
ぼくがあいまいに笑っていると、水間さんがぼくの手をにぎった。
「いくぞ。用は済んだ」
「う、うん!」
こうして僕達は引き返し、公園へともどった。奥の屋根付きのベンチに向かい、カサを閉じて、ぼくらは座る。
「ありがとう、着いてきてくれて。瑛のおかげで、手がかりがつかめた」
「ねぇ、水間さん。図書室ピエロを探してるの?」
「――そうだ」
「どうして?」
ぼくが問いかけると、水間さんがまた苦しそうな、悲しそうな、それでいて優しい顔をした。指を組んでテーブルにのせた水間さんは、長い間目を閉じていた。そして瞼を開けると、じっとぼくを見た。
「まっかっかさん」
水間さんが、ぽつりと名を呼ぶ。立ち止まったまっかっかさんが、少しだけカサを持ち上げた。
「聞きたいことがある」
赤いものを持っていると死なないのか聞くんだと、ぼくは思って見守る。
「――図書室ピエロの居場所を知らないか?」
しかし予想外の言葉が出てきたから、ぼくは目を丸くした。パチパチと瞬きをする。
「……」
まっかっかさんは、見上げるように水間さんを見ている。
青白いはだは、お化けみたいだ。実際に、お化けなのかもしれないけど。
「怪異同士のネットワークが存在することはつかんでいる。このきさらぎ市では、怪異は独自に発展しているのも分かっている。教えてくれ。図書室ピエロは何処にいる?」
水間さんは早口で、その内容は、ぼくには難しかった。
ただ気迫がすごくて、それだけ真剣なのは分かる。
「……私は知らない」
そのとき、消えてしまいそうなくらい小さな声がした。高い声だった。ただ女の子の声にも男の子の声にも聞こえる、不思議な声だった。
「『は』、か。では、どの怪異ならば、知っている? どの都市伝説の怪異ならば、図書室ピエロについて詳しい?」
「……トンカラトンに聞いてみたら? 彼はおしゃべりだから」
「トンカラトンだな。分かった。礼を言う」
水間さんがそう言って歩き出そうとしたので、ぼくはあわてた。目的は、あかいもので助かるのかどうかを確かめることのはずだ。
「ね、ねぇ! まっかっかさんは、赤いものを持ってる相手は、見逃すの?」
「……ええ」
「赤が好きなの?」
「そうね。私が死んだ時に飛び散った血が、同じ赤だから目立たなくなるから」
「そ、そう……」
なんだか、聞いてはいけないことを聞いてしまった気がした。
ぼくがあいまいに笑っていると、水間さんがぼくの手をにぎった。
「いくぞ。用は済んだ」
「う、うん!」
こうして僕達は引き返し、公園へともどった。奥の屋根付きのベンチに向かい、カサを閉じて、ぼくらは座る。
「ありがとう、着いてきてくれて。瑛のおかげで、手がかりがつかめた」
「ねぇ、水間さん。図書室ピエロを探してるの?」
「――そうだ」
「どうして?」
ぼくが問いかけると、水間さんがまた苦しそうな、悲しそうな、それでいて優しい顔をした。指を組んでテーブルにのせた水間さんは、長い間目を閉じていた。そして瞼を開けると、じっとぼくを見た。
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