4 / 101
【SeasonⅠ】―― 序章:図書室のマスク男の噂 ――
【004】図書室のマスク男④
しおりを挟む
「? なんだ? きみは?」
「あ……で、でた! ま、マスク男!」
「――確かに俺はマスクをつけているが……答えになっていない」
「出たー!!」
ぼくが悲鳴を上げると、男が困ったような顔をした。
「俺は怪しい者ではない。この学校の理事会に、毎週土曜日ここへと入る許可をもらっている。水間廣埜という。俺の方こそ聞きたい。『出た』とはどういう意味だ?」
「4時44分44秒に『図書室のマスク男』が出るって……え?」
「確かに今は16時45分になったところで俺はマスクをしているが……はぁ。今はそんな噂があるのか。『図書室ピエロ』じゃなくなったのか」
「図書室ピエロ?」
「なんでもない、こちらの話だ。それで、なんだ? 都市伝説を調べにでも来たのか?」
「う、うん」
おずおずとぼくが頷くと、水間さんがあきれたような顔をした。
「もう正体は分かっただろう。なんてことはない。二十四歳の大学院生が、図書室にいたと正確に広めておけばいい。人間だ。だが――危ないから、都市伝説を一人で調べようなんて二度とするな。生徒玄関まで送るから」
水間さんはマスクの奥で、ため息をついた様子だ。
ぼくは頷くしかなかった。
送られて生徒玄関まで歩きながら、ぼくは何度もチラチラと水間さんを見た。
特に会話はない。
水間さんはぼくが見ていると気づいているのかいないのか、正面を睨みつけるようにして歩いている。
「廣埜、今帰りか? ――っと、楠谷?」
その時、声がした。
知っている声に、それまで心の中ではビクビクしていたぼくは、顔を上げる。
廊下のところに今年から担任になった十焔寺泰我先生が立っている。紺色のウィンドブレーカー姿だ。ぼくの体から力が抜ける。泰我先生は学校でも人気者で、ぼくも大好きだ。近所のお寺の次男だと聞いたことがある。
「泰我、俺はまだ残る。この子を送りに来ただけだ」
「楠谷はなにをしてるんだ? 不審者についていってはダメだぞ?」
「それは俺を不審者だと言ってるのか?」
「冗談だよ冗談。廣埜が不審者でないというのは、幼なじみの俺がよく証明できる」
幼なじみという言葉と、親しそうな二人の姿に、ぼくは気が抜けた。
「図書室で会ったんです!」
「勉強か? 偉いなぁ」
泰我先生もお父さんと同じかんちがいをしている様子だ。
ぼくは言葉につまり、真相を知る水間さんを見た。水間さんは何も言わなかったけど、あきれた顔をしていた。
「ぼく、もう一人で帰れます!」
早く帰ってしまおうと、ぼくは歩きはじめた。
「おう。また月曜日にな」
泰我先生の明るい声がする。スニーカーをはいてから振り返ったぼくは、残った二人がろうかで立ち話をしているのを見たけど、そのまま家に帰ると決める。二人の話は聞かなくていい。それにもう、図書室のマスク男のウワサは確かめた。
急いで自転車置き場へと向かい、自転車に乗ってこぎはじめる。
途中で神社へと続く石段の前を通り過ぎ、角を曲がってマンションへと戻った。
「あ……で、でた! ま、マスク男!」
「――確かに俺はマスクをつけているが……答えになっていない」
「出たー!!」
ぼくが悲鳴を上げると、男が困ったような顔をした。
「俺は怪しい者ではない。この学校の理事会に、毎週土曜日ここへと入る許可をもらっている。水間廣埜という。俺の方こそ聞きたい。『出た』とはどういう意味だ?」
「4時44分44秒に『図書室のマスク男』が出るって……え?」
「確かに今は16時45分になったところで俺はマスクをしているが……はぁ。今はそんな噂があるのか。『図書室ピエロ』じゃなくなったのか」
「図書室ピエロ?」
「なんでもない、こちらの話だ。それで、なんだ? 都市伝説を調べにでも来たのか?」
「う、うん」
おずおずとぼくが頷くと、水間さんがあきれたような顔をした。
「もう正体は分かっただろう。なんてことはない。二十四歳の大学院生が、図書室にいたと正確に広めておけばいい。人間だ。だが――危ないから、都市伝説を一人で調べようなんて二度とするな。生徒玄関まで送るから」
水間さんはマスクの奥で、ため息をついた様子だ。
ぼくは頷くしかなかった。
送られて生徒玄関まで歩きながら、ぼくは何度もチラチラと水間さんを見た。
特に会話はない。
水間さんはぼくが見ていると気づいているのかいないのか、正面を睨みつけるようにして歩いている。
「廣埜、今帰りか? ――っと、楠谷?」
その時、声がした。
知っている声に、それまで心の中ではビクビクしていたぼくは、顔を上げる。
廊下のところに今年から担任になった十焔寺泰我先生が立っている。紺色のウィンドブレーカー姿だ。ぼくの体から力が抜ける。泰我先生は学校でも人気者で、ぼくも大好きだ。近所のお寺の次男だと聞いたことがある。
「泰我、俺はまだ残る。この子を送りに来ただけだ」
「楠谷はなにをしてるんだ? 不審者についていってはダメだぞ?」
「それは俺を不審者だと言ってるのか?」
「冗談だよ冗談。廣埜が不審者でないというのは、幼なじみの俺がよく証明できる」
幼なじみという言葉と、親しそうな二人の姿に、ぼくは気が抜けた。
「図書室で会ったんです!」
「勉強か? 偉いなぁ」
泰我先生もお父さんと同じかんちがいをしている様子だ。
ぼくは言葉につまり、真相を知る水間さんを見た。水間さんは何も言わなかったけど、あきれた顔をしていた。
「ぼく、もう一人で帰れます!」
早く帰ってしまおうと、ぼくは歩きはじめた。
「おう。また月曜日にな」
泰我先生の明るい声がする。スニーカーをはいてから振り返ったぼくは、残った二人がろうかで立ち話をしているのを見たけど、そのまま家に帰ると決める。二人の話は聞かなくていい。それにもう、図書室のマスク男のウワサは確かめた。
急いで自転車置き場へと向かい、自転車に乗ってこぎはじめる。
途中で神社へと続く石段の前を通り過ぎ、角を曲がってマンションへと戻った。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる