鳥籠のΩは青銅色の夢を見る。

猫宮乾

文字の大きさ
上 下
26 / 27
――第二章:花が咲く庭――

【十】

しおりを挟む



「!!」

 僕の体がビクリとしたのは、その時の事だった。ゼルスの腕の中に倒れ込んでいた僕のうなじを、彼が人差し指の腹でなぞった瞬間だ。

「ぁ……」

 人差し指は、僕のうなじを優しく往復する。そうされると、僕の体の奥深い場所がゾクゾクと疼く。未知の感覚に、僕は震えた。何故なのか僕の瞳は潤み、体が小刻みに震え出す。その時僕は、気がついた。桃のような甘い匂いがしていて、それはどうやら僕自身から放たれているらしい。そしてその香りが強くなる度に、僕の背筋は震え、触れられているうなじの事しか考えられなくなっていく。

「そこ……ぁ……」

 僕を抱きしめ直したゼルスが、僕のうなじを今度は舌でなぞった。熱く湿った感触に、僕の体がどんどん熱くなっていく。

「もっとキルトが欲しいと伝えたな」
「うん」
「番という証が欲しい――いいや、違う。もう噛みたいという衝動が抑えきれない」
「ひ、!! ああああア!!」

 それは、一瞬の出来事だった。僕を抱き込んだゼルスが、強く僕のうなじを噛んだのだ。その瞬間、桃のような香りと、ゼルスが放つどこか爽快な匂いが混じって、庭園の花の匂いをかき消した。始め、僕は痛いと思い恐怖したのだが、そこにもたらされた刺激は、痛みでは無かった。襲いかかってきたのは――残酷なほどの快楽だった。僕にとって快楽は未知だ。だが直感的に理解させられた。

「あ、あ……あぁ……アア、ぁ」

 何度も何度もゼルスが僕のうなじを噛む。震えながらゼルスを見上げれば、僕が初めて見る表情をしていた。本能的に、僕は食べられてしまうような錯覚を抱く。今逃げなければ、僕は永遠に捕まってしまうだろう。だけど、ゼルスが相手ならば、それでも良い。

「歩けるか?」
「……う、ん」
「本当に?」

 その時、服の上から僕の陰茎を、ゼルスが撫でた。もう腰に力が入らない。
 耳元で囁くように言われて、僕は羞恥から涙ぐんだ。全身が熱い。こんな事は、人生で初めてだった。

「あ、ああ……僕、発情してるの?」
「――いいや。発情の熱はもっと強く、理性など消し飛ぶから、そんな質問も出来なくなる。今は番になった俺に触れられて、体が反応してるんだよ。キルト、今日はこの庭園には誰も来ない。王族の誰一人として。この庭園の奥にはな、小さな塔がある。行こう」

 そういうとゼルスが、僕の体を抱き上げた。そして薔薇の茂みを抜けると、小さな塔の入り口を開けたのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

運命の人じゃないけど。

加地トモカズ
BL
 αの性を受けた鷹倫(たかみち)は若くして一流企業の取締役に就任し求婚も絶えない美青年で完璧人間。足りないものは人生の伴侶=運命の番であるΩのみ。  しかし鷹倫が惹かれた人は、運命どころかΩでもないβの電気工事士の苳也(とうや)だった。 ※こちらの作品は「男子高校生マツダくんと主夫のツワブキさん」内で腐女子ズが文化祭に出版した同人誌という設定です。

どうも。チートαの運命の番、やらせてもらってます。

Q.➽
BL
アラフォーおっさんΩの一人語りで話が進みます。 典型的、屑には天誅話。 突発的な手慰みショートショート。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

処理中です...