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――第二章:花が咲く庭――
【十】
しおりを挟む「!!」
僕の体がビクリとしたのは、その時の事だった。ゼルスの腕の中に倒れ込んでいた僕のうなじを、彼が人差し指の腹でなぞった瞬間だ。
「ぁ……」
人差し指は、僕のうなじを優しく往復する。そうされると、僕の体の奥深い場所がゾクゾクと疼く。未知の感覚に、僕は震えた。何故なのか僕の瞳は潤み、体が小刻みに震え出す。その時僕は、気がついた。桃のような甘い匂いがしていて、それはどうやら僕自身から放たれているらしい。そしてその香りが強くなる度に、僕の背筋は震え、触れられているうなじの事しか考えられなくなっていく。
「そこ……ぁ……」
僕を抱きしめ直したゼルスが、僕のうなじを今度は舌でなぞった。熱く湿った感触に、僕の体がどんどん熱くなっていく。
「もっとキルトが欲しいと伝えたな」
「うん」
「番という証が欲しい――いいや、違う。もう噛みたいという衝動が抑えきれない」
「ひ、!! ああああア!!」
それは、一瞬の出来事だった。僕を抱き込んだゼルスが、強く僕のうなじを噛んだのだ。その瞬間、桃のような香りと、ゼルスが放つどこか爽快な匂いが混じって、庭園の花の匂いをかき消した。始め、僕は痛いと思い恐怖したのだが、そこにもたらされた刺激は、痛みでは無かった。襲いかかってきたのは――残酷なほどの快楽だった。僕にとって快楽は未知だ。だが直感的に理解させられた。
「あ、あ……あぁ……アア、ぁ」
何度も何度もゼルスが僕のうなじを噛む。震えながらゼルスを見上げれば、僕が初めて見る表情をしていた。本能的に、僕は食べられてしまうような錯覚を抱く。今逃げなければ、僕は永遠に捕まってしまうだろう。だけど、ゼルスが相手ならば、それでも良い。
「歩けるか?」
「……う、ん」
「本当に?」
その時、服の上から僕の陰茎を、ゼルスが撫でた。もう腰に力が入らない。
耳元で囁くように言われて、僕は羞恥から涙ぐんだ。全身が熱い。こんな事は、人生で初めてだった。
「あ、ああ……僕、発情してるの?」
「――いいや。発情の熱はもっと強く、理性など消し飛ぶから、そんな質問も出来なくなる。今は番になった俺に触れられて、体が反応してるんだよ。キルト、今日はこの庭園には誰も来ない。王族の誰一人として。この庭園の奥にはな、小さな塔がある。行こう」
そういうとゼルスが、僕の体を抱き上げた。そして薔薇の茂みを抜けると、小さな塔の入り口を開けたのだった。
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