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――第二章:花が咲く庭――
【一】
しおりを挟む「キルト……キルト?」
「ん……」
気づくと僕は、眠っていたようだった。ゆっくりと瞼を開けると、隣でゼルスが笑っていた。彼の肩へと寄りかかり、僕はうとうとしていたらしい。
「おはよう、キルト」
ゼルスはそう言うと、僕の肩を抱き寄せた。そして頬に口づけた。ごく自然な動作だったから、僕はぼんやりしたまま、その唇の感触を受け入れていた。
「王宮に着いた。降りよう」
「う、うん」
その言葉に一気に覚醒して、僕は目を開けた。ゼルスは僕の手を優しく握ると、馬車から降りた。屈んでついていくと、大勢の騎士達が並ぶ橋の先に、馬車が停車しているのだと分かった。騎士の衣服は、本に描かれていた挿絵にそっくりだった。
地に降りた僕は、腰をゼルスに支えられながら、空を見上げた。先程とは月の角度が少し違う。けれど沢山の星が煌めいているのは同じだ。思いっきり空気を吸い込んでみる。室内とは違う冷たい感覚がする。深呼吸を、こんなにも意図して行うのは初めてだ。
外、だ。
改めてそう考えていると、ゼルスが僕の手を優しく握った。
「行こう」
「……うん」
「早く君をみんなに紹介したいけど、謁見は明日だ。襲撃があったばかりだからな。今日はゆっくりと休んだ方が良い」
「有難う」
僕が小さく頷くと、微笑してからゼルスが歩き始めた。手を繋いだまま、僕もついて行く。その後、王宮の中へと促された。白亜の床には緋色の絨毯が敷かれていて、所々に巨大な魔導灯がついている。等間隔に彫像や絵画が並んでいた。僕は階段を連れられて登り、三階へと導かれた。その奥にある一室の前に、王宮の侍従がいて、僕達を前にすると腰を深く折ってから、扉を開けてくれた。ゼルスが鍵を受け取っていた。
「今日はここで休んでくれ」
中に入ると、テーブルの上に、僕の鞄が置かれていた。持ってきてくれているのだと、知らなかった。テディ・ベアを抱きしめたまま中へと進み、僕はテーブルを見る。巨大な部屋で、僕の塔の部屋の、リビングと寝室を合わせたのと同じくらい大きな部屋に通された。そこから複数の部屋に繋がっていて、ゼルスが手をかけた扉の向こうに寝台が見えた。その部屋だけでも、やはり広い。
「浴室は向こう。魔導具で常に湯は沸かしてある。トイレはその隣。寝室はここで――」
ゼルスが一つ一つ丁寧に説明してくれたが、僕は見て覚える事で精一杯だった。
「今日はもう休むか?」
「うん……休みたい」
「そうか。疲れただろうからな」
テディ・ベアを抱きしめている僕に歩み寄ると、ゼルスが穏やかに僕を抱きしめた。目を伏せ、僕はその感覚に浸る。優しいのに力強い腕の感触に、僕は思わず両頬を持ち上げた。
「みんな、無事だったんだよね?」
「――ああ。何も心配する事は無い」
「本当に良かった……」
僕がそう伝えると、僕の額にゼルスが己の額を押しつけた。
「そうだな。そして、ここはどこよりも安全だ。もう何も心配はいらない」
ゼルスは言い聞かせるようにそう述べると、僕の体に触れ、寝室へと促してくれた。ついていき、僕は枕元にテディ・ベアを下ろした。そして静かにベッドに座る。そしてまじまじと、正面に立つゼルスを見上げた。
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