15 / 27
――第一章:籠の中の鳥――
【十五】
しおりを挟む「大変です、ベリアル様!! テロリストの急襲――ッ!!」
入ってきた青年が、大きな声で叫んだ直後、ダンという音がした。初めて聴く音は、ずっと耳の中で残響していた。その場で床に倒れた青年の体から、赤い血が広がっていく。
僕が呆然としていると、室内に新たな人物が入ってきた。その時、僕を庇うように案内人が前に出て、腕を伸ばして僕を後ろに下がらせた。もう一方の手には、僕が見た事の無い物を持っていて、それが次の瞬間、先程聴いた音によく似たダンという音を立てた。
「……この部屋は、完全防音だからな。外の喧噪に気づけなかった。迂闊だった」
案内人がそう言うと、新しく入ってきた人物が床に倒れた。
「手に持っているのは、何……?」
「魔導銃だ。後ろからテロリストが、同僚を撃ったのを見て、防衛のために使用した。私の銃には気絶させる能力しか無いが、先方は本気で殺しにきているようだな」
「テロリストって何?」
「魔力持ちのΩを国が不当監禁していると唱えながら、各地の塔を襲っている連中だ。よりにもよって、何故今日……」
低い声で述べた案内人は、ソファからテディ・ベアを手に取ると、僕に渡した。
「本当に大切なのは、それくらいだろう? それだけを持っていれば良い」
「うん……?」
「貴方を守る事もまた、私の職務だ。だが、守りきれるとは断言できない。もしもテロリスト達に連れ去られる事があったら、生き残る事を優先するように。キルト、死ぬな」
僕は案内人に、初めて名前を呼ばれた。それから、最初に聴いた声を思い出した。
「ベリアル……?」
「なんだ?」
「……助けてくれて有難う」
「私は仕事をしているだけだ。礼は不要だ」
そんなやりとりをしていると、複数の足音が聞こえてきた。直前で、ベリアルが扉に向かって施錠する。それから戻ってきた彼は、温室へ続く扉を開けてから、僕を寝室に促した。そして壁のクローゼットを見ると、険しい顔をして、その扉を開ける。
「入っていろ。隠れる場所が他には無い」
「温室に行くんじゃないの?」
「行ったように見せかける。後は私が対応するから、ここで大人しくしていろ。息を潜め、存在を気づかせるな」
僕はテディ・ベアを抱きしめながら、頷いた。先程、異変を知らせに来てくれた青年から、流れ出ていた血を思い出す。すると震えがこみ上げてきた。
「気をつけてね」
「ああ。私には問題は無い。自分の心配をしていろ」
クローゼットの扉が閉まる。その後寝室の扉の閉まる音も響いてきた。
じっと外の気配に耳を傾けていると、リビングの扉が蹴破られる音がし、大勢の足音が聞こえた。ダンという音――銃声が谺している。ギュッと目を閉じて、僕は震えていた。
1
お気に入りに追加
319
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
婚約破棄されたSubですが、新しく伴侶になったDomに溺愛コマンド受けてます。
猫宮乾
BL
【完結済み】僕(ルイス)は、Subに生まれた侯爵令息だ。許婚である公爵令息のヘルナンドに無茶な命令をされて何度もSub dropしていたが、ある日婚約破棄される。内心ではホッとしていた僕に対し、その時、その場にいたクライヴ第二王子殿下が、新しい婚約者に立候補すると言い出した。以後、Domであるクライヴ殿下に溺愛され、愛に溢れるコマンドを囁かれ、僕の悲惨だったこれまでの境遇が一変する。※異世界婚約破棄×Dom/Subユニバースのお話です。独自設定も含まれます。(☆)挿入無し性描写、(★)挿入有り性描写です。第10回BL大賞応募作です。応援・ご投票していただけましたら嬉しいです! ▼一日2話以上更新。あと、(微弱ですが)ざまぁ要素が含まれます。D/Sお好きな方のほか、D/Sご存じなくとも婚約破棄系好きな方にもお楽しみいただけましたら嬉しいです!(性描写に痛い系は含まれません。ただ、たまに激しい時があります)
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる