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――第一章:籠の中の鳥――
【九】
しおりを挟むゼルスは僕を見ると、柔和な笑顔を浮かべた。
「キルト、箱を開けてくれ」
「うん。でも、本当に僕に贈り物をしてくれたの?」
「ああ、勿論だ。俺は約束を果たす人間だからな」
「約束?」
「開ければ分かる」
それを聞いて、僕はリボンを解いた。鼓動が激しくなった気がする。テディ・ベアの他に、僕は誰かに物を貰った事は、一度も無いのだ。
「あ……綺麗」
中には、首飾りが入っていた。青と緑の中間に見える色をしている。僕が始めて見る色だ。薄い青の花と葉の緑を混ぜ合わせたら、このような色になる気がした。
「それが青銅色だ」
「え?」
「実物を見せた方が早いと思ってな。緑青色とも言う。王都の水路は、もう少し青が強いが、確かに言われてみれば青銅色だな」
箱から取り出して、僕はじっくりと首飾りを見た。大きなペンダントトップが、青銅色の薔薇を象っていると気づいた。細かな意匠が施されていて、そこから細い銀色の鎖が伸びている。
「良かったら、身につけてくれないか?」
「うん」
嬉しくなって、僕は自分の首からそれを提げた。そして薔薇の飾りを手で握った。
「水に濡れても劣化しない魔術を込めてある。いつも身につけていて欲しい。そして――それを見る度に、俺を思い出して欲しい」
「分かった」
言われなくとも、僕にとって贈り物は、非常に貴重だから、僕にこの品をくれたゼルスの事は、生涯忘れないだろうと思った。
「有難う」
お礼を述べた僕は、それからガラスの向こうを確認した。本日も、ゼルスの姿しか無い。
「ねぇゼルス。ゼルスは一人で来たの?」
「ああ。俺は今後も一人で来る予定だ」
「いつもは数人で来るんだよ。どうして一人なの?」
「――それは、俺がキルトの時間を買っているからだ」
「え?」
「君が誰かに見初められたらと思うと、気が気じゃなくてな」
それを聞いて、僕は片手を自分の頬に当て、その肘をもう一方の手で支えた。
「時間を買う? そんな事が出来るの?」
「ああ、可能だ。単独で会う予約を入れておけば良い」
「……昨日の午後と、今日の朝、僕には見学会が無かったんだよ。何か知ってる?」
「その時間も、俺が買ったからだ。ただ、俺には仕事があったから、会いには来られなかったんだけどな。本当なら、ずっと話をしていたい」
驚いた僕は、目を丸くする。ゼルスがその時、微苦笑した。
「嫌か? 俺としか会えないのは」
「ううん。僕と話をしてくれるのはゼルスだけだし、他の人には会いたくないよ」
これは僕の本心だった。いつも僕を見て、欠陥品だと嗤っていく人々に見られるよりも、聞きたい事や教えてもらいたい事が沢山あるゼルスとだけ、話をする方がずっと良い。
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