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―― 本編 ――
2:目を覚ましたらゲーム世界
しおりを挟む次に目を覚ましたとき、俺はなぜなのかシャンデリアと、こちらを心配そうに見ている執事らしき人物を視界に入れていた。
「リオ様!?」
確かに俺の名前は、遠野利緒だ。しかし、俺をのぞき込んでいるロマンスグレー(?)の人に見覚えはないし、様、だなんて呼ばれる覚えもない。
「良かった、意識を取り戻してくださって。あなたは肺炎で生死を彷徨っていたのです。あなたに何かあれば、このブラッディ家の血筋が途絶えてしまっていました」
安堵するような声がした。
「……」
状況が全く分からない。
「丁度魔法学園からの入学許可証も届いていますよ」
何の話だと思いながら、しかしながら、何処かで聞いたなと思い、俺は起きあがった。
――リオ・ブラッディ。
それって妹にやらされたゲームの、貴族Aの名前じゃなかったか。ブラッディ侯爵家の人間で、次席で入学を果たし、何かと主人公に嫌がらせをするキャラの名前だ。
大抵の場合、攻略キャラが何かしたらしく、『その後、Aの姿を見た者はいなかった』だとか『Aは行方不明になった』だとか『公衆の面前で恥をさらしたAのその後は誰も知らない』だとか『Aの恋心は云々』という、サクっと退場する脇役兼ライバルで、確か実は王子のことが好きだったとか言う裏設定を妹が語っていた気がする。
――あれ、俺毒キノコを食べて意識を失ったんだよな?
って事は、コレは夢か。そうだよな。夢か。なんだぁ夢かぁ。
「リオ様? 何かお飲み物でもお持ちいたしましょうか?」
「あ、はい。お願いします」
「!」
俺が普通に答えると、執事(?)さんに目を見開かれた。
「え?」
その反応に疑問を持っていると、困惑するように執事(?)さんが言った。
「私のようなただの使用人に、そのように優しいお言葉をいただくだなんて――……まだ、熱が?」
そういえば貴族A――リオ・ブラッディは、ツンツンでイヤミなキャラだった気がする。平民なんて大嫌いな感じだ。
あの性格から予想するに、家の執事(?)なんかには、そりゃあもう、罵詈雑言を放っていそうではある。
「別に。水を頼む」
俺はソレっぽく言ってみた。どうせ夢だし。
すると安堵したように頷いて執事(?)さんが出て行った。
それにしてもこの夢、良いな。
夢が終わるまで、なんて言ったって、俺は魔法使いなんだ。魔法が使えるはずだ!
使ってみたくてわくわくしながら、俺はベッドサイドに足をおろし、ベッドに座り直した。
肺炎だって聞いていたが、咳も出ないし、体に辛い所なんて全くない。
それから俺は入学準備を整えていった――日数にして約二週間。
いい加減夢にしては長過ぎはしないかと、俺は不安になった。
まさか、まさかだ。
俺はゲームによく似た異世界にトリップしてしまっただとか、ゲーム内に閉じこめられただとか、そういうネット小説でよく見るパターンにはまってしまったのだろうか。よく妹が楽しそうに話していたので、俺はそういうネタには詳しい。
ということは……ということは……!
俺は魔法が使い放題って事か!?
なんたる僥倖!!
俺は一度で良いから魔法を使ってみたかったんだ!!
試しに裏庭で魔法を使ってみたら、脳裏に思い浮かべたとおりの現象が目の前に起こった。
うわぁああ何コレ、楽しすぎる!!
そんなこんなで、俺は入学式の当日を迎えた。
誓いの言葉か何かを読んでくれと言われたが、いえいえ次席なので、と断った。(おそらく貴族への配慮なのだろう)
俺は人前に立つのがあんまり好きじゃないのだ。だが、たいそう驚かれた顔をした。
そうして入学式に臨んだ俺は、誓いの言葉を述べている――主人公を発見した。そういえば、この場面、ゲームで見た。確かこの後貴族A(つまり今の俺)は、主人公のヒイロにイヤミを言って、本当は俺が読むはずだったのに、とか言うのだ。しかしそんな面倒なことはしたくない。俺は魔法が使いたくてうずうずしていたのだ。
――それにしても、主人公がいるって事は、他のキャラもいるって事か?
それとなく周囲を見回してみると、俺の二つ隣の席に、攻略キャラの一人で、俺と同じ侯爵家出身のウル・カレンツァが座っていた。あいうえお順でもないようだが、この席順は一体どうやって決められたのだろう。他にはクラスメイトの、トール・ナイトレイの姿もある。そもそも俺には日本語に聞こえるし、文字も日本語に見えるが、実際にここが異世界もしくはゲーム世界ならば、日本語じゃないような気がする。まぁいいか。俺は深いことは気にしない主義なので、そういうことにしておいた。
後ろの席もそれとなく眺めると、貴族B……俺の取り巻き設定だった、ライア・ウェステリアと、貴族Cこちらも取り巻き設定のアーノルド・キュルシア、貴族Dことビルド・ヒルカの姿があった。教師席には、攻略対象の教師が座っていたし、在校生の席の最前列には王子様――ルス・アーガストが座っていた。
「っ」
瞬間、ルスと目があって、慌てて俺は視線をそらした。あー吃驚した。
ルス王子は、確か第二王子という設定だったと記憶している。金髪に緑色の目をしていて、身長は百七十センチ代後半。俺が今なりきっているとでも言えばいいのか、貴族Aのリオは百七十代前半だった。自分と同じ名前だから覚えていたのだ。妹と一緒にゲームをしていたときは、あー俺って脇役属性なんだなぁとか考えていたのが懐かしい。しかし、しかしだ。俺は、脇役にもなりたくない。空気のような存在になって、魔法の腕を磨くのだ!
楽しみで仕方がなかった。
ちなみに俺の外見は、現実と全く変わらなかった。外見チートは無かった。
恙なく入学式は終わり、俺達は各クラスの教室へと移動した。
俺は、主人公のヒイロと、ライバル侯爵家のウルと、伯爵家のトールと同じ教室へと入った。クラス分けは魔力量によって決まるらしい。全部で3クラスある。どのクラスも、貴族ばっかりらしく、平民はごく少数なのだったかな。後はまれに王族がいる。今回は二つ上のクラスに、第二王子がいるのだ。
席順は、俺の隣にヒイロ、その隣にウル、ヒイロの後ろにトールという並びだった。
確かゲームでは、着席したあたりで俺がイヤミを言い、ウルが止めにはいるのだ。そして俺とウルの口舌戦が始まる。しかしそんな面倒なことはしたくないので、素直に俺はオリエンテーションの資料を眺めていた。
「残念だったな、主席になれなくて」
その時そんな声が響いてきた。誰に誰が言っているのだろうかと周囲を見回すと、ウルが俺を見て嘲笑していた。そんなことを言われても、仕方がないとしかいえない。何せ俺は二週間前まで、魔法なんて無い世界で生きてきたのだから。
「純粋な実力の問題で、俺にはそれが無かったんだ。これから少しずつでも近づけるように学んでいきたい」
本音からそういうと、ウルが息をのんだ。目を見開いている。
するとその隣で、ヒイロが静かにこちらを見た。
「誓いの言葉、本当はブラッディ侯爵家のリオ様が言うはずだったって聞いた。だけど次席だから断ったって、本当に?」
不安そうに言ったヒイロの言葉に、さらに驚いたようにウルが何度も険しい顔で瞬きをした。
「まぁ」
頷いていると、今度は後ろの席から、トールが声をかけてきた。
「貴族も平民も関係ないよな」
「そうだなぁ」
うんうんと小さく頷いて笑うと、いよいよウルがぎょっとしたような顔をした。
「お前、熱でもあるのか?」
「無い。少し前は熱で生死を彷徨っていたらしいけどな」
少なくともその記憶は俺にはない。
「熱で頭がイかれたのか?」
「そんなことはないけど……なんだ、急に」
「……」
俺の言葉に、不審そうにウルが黙り込んでしまった。
その後、魔法の練習用に、第5校庭が練習場として開放されているというのを聞いて、俺は早速向かうことにしたのだった。
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