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―― 序章 ――

【六】視えない事が辛い理由

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 ――放課後。

「芹架くん、行こう!」

 斗望の声に、鞄にノートをしまっていた芹架が、微笑して頷いた。
 テストは来週からであるから、今週は集中したい。斗望も芹架もそれは同じ気持ちだ。

 特に芹架は、視えないながらも、『あやかしが存在する』という事を、幼少時から知っている。家族や斗望の影響だ。だが分からないものは、どうしようもない。そんな負い目も手伝って、芹架は通常科目の方に力を入れて、成績を保っている。

 一方の斗望は、一般的な科目は平均的だが、非常に強い『視る力』がある。別段、普段はそれを口にしないが、事実を知る教職員の間でも、この新南津市の中で視える人々にも、それは比較的有名だ。「さすがは藍円寺の後継者!」や「玲瓏院の分家の跡取り!」と言われることも珍しくなくなってきた。斗望本人はまだ、将来の進路など考えてはいないのだけれど。

 なお――そんな芹架であっても、視えるあやかしも存在する。それらはとても力が強い存在で、人間なら誰でも視られる。あるいは本人達が気配を押し殺し、視えないようにしている。

 絢樫カフェの面々は、そんな中にあって、非常に強い力を持つため、誰にでも視える存在だ。だから、芹架は彼らがあやかしであるとは考えていない。斗望は知っているのだが。ちなみに本日待ち合わせをしている冥沙は、心霊現象自体を信じていないし、あやかしなんていないと考えている。瀧澤教会の娘である彼女は、あまり信仰心もないようだ。

 斗望と芹架は、並んで教室を出る。
 そして校舎から出てからも、お互い笑顔で絢樫カフェへと向かった。
 本日は斗望はバイト日ではない。
 だからバーの時間であっても飲酒をしなければ、そこにいる事自体は許可されている。
 冥沙との待ち合わせは午後の五時半だったのだが、二人は四時五十五分に絢樫カフェに到着した。

「いらっしゃい」

 出迎えた砂鳥は、微笑すると奥の四人掛けの席を見た。
 三人で勉強するには最適の席だ。

「どうぞ」

 促されて、二人はそこへと向かう。すぐに砂鳥は、水を三つ運んできた。そして二つは斗望と芹架の前に、もう一つは芹架から見ると無人の二人掛けの席に置いた。斗望はそこに、芹架の護衛である水咲が座っているのが視えている。

 妖狐の水咲がいるらしいと、それも芹架は知っている。だが一度も視えた事もなければ、声を聞いた事もないから、どことなく居心地が悪い。

 芹架のこの症状は、小学生時代のトラウマに起因する、心因性あやかし不可視症候群というらしい。それについても芹架は説明を受けた事がある。実を言えば――それこそ斗望と出会った幼稚園の頃は、おぼろげな記憶ではあるし、今となっては幻想かとも考えるが、芹架もまた、視えたのである。

 芹架にとって、あやかしが視えなくて最も辛い事は、親友の斗望と同じ世界を視られない事だった。

 そんな芹架の内心を、斗望は知らない。

 その時、お店の扉が開いた。

「あ」

 その声に二人がそちらを見ると、享夜とローラが入ってきたところだった。仕事の帰りなのだろう。紺色の和装に袈裟姿の亨夜と、洒落た私服姿のローラは、斗望と芹架を見ている。亨夜はあまり笑わないのだが、ローラは綺麗な笑みを浮かべている。

「亨夜くん!」
「斗望達も来てたのか」
「うん。これから冥沙ちゃんも来て、三人で勉強するんだよ」
「そうか」

 亨夜は斗望や芹架に対しては、柔和な表情をする事も多い。
 それからローラと亨夜は、斗望と芹架の席とも近い、カウンター席の一角に座った。そこはこの二人の定位置だ。


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