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―― 序章 ――

【五】通知の音とメッセージアプリ

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 翌日、斗望は学校へと向かった。

「おはよう、芹架くん!」

 そして芹架の席のところまで歩み寄り、微笑する。芹架の席は、扉に近い。

「おはよう」

 柔らな笑みを返してきた芹架に対し、教室の、主に女子の視線が集中する。
 というのも、芹架はあまり笑わないからだ。芹架が自然な笑顔を浮かべる相手、それは親友の斗望くらいのものである。二人の付き合いは幼稚園からの事で、小学校時代に芹架に色々な事があった後も、斗望がいつも隣にいた事から、芹架は斗望には心を開いているけれど、元々芹架には寡黙で控えめな部分もあるから、他者にはそれほど心を開いていないという理由がある。

 それから斗望は自分の席へと向かった。すると名前順による席順にて、一つ後ろの席である犬飼直登いぬかいなおとが顔を上げた。

「おはよ、斗望」
「おはよう、犬飼くん!」

 挨拶を返しながら、斗望はまじまじと犬飼を見る。犬飼は、この学園に、春から編入してきた生徒だ。明るい小麦色の髪をしている。斗望と同じで染色はしていない地毛だそうだ。目の色も同色だ。芹架ほどではないが背も高い。すぐにクラスの女子の間で人気者の一人になったが、まだ男子の友達は斗望を含めて少数である。耳にピアスがたくさんついているので、怯えている男子も多い。斗望はピアスに憧れがあるわけではなかったが、特に怖いとも思わないので、よく雑談をする。ただ犬飼は、『ヤンキー! っていう古代生物!』と、噂される事がある。斗望の知識として、ヤンキーとはどうやら不良の事であるようだったが、あんまりよく理解してはいなかった。

 席に着いた斗望は、鞄から教科書などを机の中にしまっていく。
 それからスマートフォンを取り出した。通知音がしたから、消しておかなければと画面に触れると、メッセージアプリに、冥沙からの連絡が来ていた。

『待ち合わせ、今日だったわよね?』

 それを見て、斗望へ返信する。

『そうだよ』
『本当に芹架もくるのね?』
『うん』
『しょうがないから、ちょっとだけなら一緒に勉強してあげる』
『別に僕は、芹架くんと僕だけでもいいよ?』
『なんでそういう事いうのよっ!』
『でも冥沙ちゃんがいてくれたらもっと嬉しい』
『急にデレるのも本当止めなさいよー!』
『じゃあ絢樫カフェで待ってるね』
『仕方ないわねぇ……』

 そんなやりとりを急いでアプリで行った。実はもうすぐ新学期テストが近いので、斗望は芹架と二人で、絢樫カフェで勉強をしようと話していたのだが、冥沙も来たいと話している。斗望は、その理由を知っている。冥沙は、芹架の事が大好きらしい。それは亨夜に対する憧れとは違う、『恋』らしいというのも知っている。斗望は、とってもとっても小さい頃は、冥沙が好きだった。だが、次第に成長して、恋というものがどんな感情かよくわからなくなってからは、冥沙の事は好きだけれど、恋とは違うようにも思っている。だが、冥沙が芹架について質問してくるので、親切に教えてあげた。『芹架くんと勉強するよ!』と。すると、一学年上であるから、自分は教えてあげる事が可能だとして、冥沙が参加を表明したのである。斗望は、芹架の気持ちは知らないが、分かりやすい冥沙の気持ちは知っていたし、恋ではないかもしれないが、冥沙の事も変わらず大切なので、本日は久しぶりに三人で会う場を設けた。

 その内に予鈴がなり、SHRが始まる。こうして一日が始まった。


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