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―― 本編 ――
【第五話】隣人との第一遭遇
しおりを挟む午後は実技訓練という名の筋トレをダラダラとサボりながら行い、この日はバイトが無かったので、永良は真っ直ぐに帰路についた。通学路には、ぶらぶらと歩く同じ学園の生徒や近隣の学園の生徒の姿がある。駅前を通り過ぎ、大通りの交差点を過ぎてから、アパートやマンションが立ち並ぶ区画に入り、永良は己のアパートを見た。コーポ・ナーサリーテイルという名前だ。五階建ての三階に、永良の部屋はある。古めかしくはなく、それなりに綺麗な外観をしている。
その階段をのぼっていき、三階のフロアに出た時だった。
「!!」
通路に一人の少女が倒れていた。
「だ、大丈夫ですか!?」
慌てて永良は駆け寄った。制服からして、近くにある正義の味方養成校の女子高である、聖百合園学院高等部の生徒だろうと判断した。黒い髪をしていて、後ろで一つにまとめている。
「……っ」
永良が肩に触れると、少女が僅かに目を開き、薄っすらと唇を開けた。とても端正な顔立ちをしていて、黒い瞳が生理的な涙で濡れている。睫毛の上にも雫がのっている。
「救急車……!」
「……大丈夫。ただの貧血。少し眩暈がしたから……横になっていただけだから」
「通路でか!?」
「部屋まで帰りつけなかったの……まだ立てそうになくて」
「頭を打ったりはしてないのか?」
「してない。倒れる前に、自分で横になったから」
少女にしては少し低めの声音だ。背も少女にしては高い。174cmの永良より、それでも10cmは低いだろうが。痩身で、長い手足が細い。永良はじっくりと少女の体躯を観察した後、改めて視線を合わせた。
「本当に大丈夫なのか? それに、部屋って?」
「3002号室に引っ越してきたの」
「俺は3003号室だから、お隣さんか。確かに空き部屋だったな。ええと、お名前は?」
「……静玖」
その声に、永良は頷いてから、嘆息した。
「床で寝ているのは体に悪いし、俺が支えるから、何とか歩けないか?」
「……優しいのね」
「いや? 誰でも同じ対応をするんじゃないか?」
「……そう」
静玖は頷くと、体を起こそうとした。慌てて永良がその背を支える。
こうして立ち上がると、やはり少女としては背が高かった。可愛いというよりは、美人という言葉が似合う静玖の華奢な肩を支え、すぐそばの3002号室を目指す。落ちていた静玖の鞄は、永良が持った。部屋の前につくと、静玖がその鞄のポケットに手を添えた。そして楕円形のカードキーを取り出す。
「ありがとう、助けてくれて」
「いや。俺は、秋野永良っていうんだ。お隣さんだし、具合が悪くなったら救急車を呼んだり、コンビニで飲み物を買ってくるくらいならできるから、声をかけてくれ」
善意で永良は述べた。
すると扉を開けながら、無機質な表情で、静玖が頷いた。
「永良、くん。覚えたよ」
「うん。あとは一人で大丈夫か?」
「……大丈夫。今度お礼する」
「気にしなくていいよ」
永良が微笑すると、静かに静玖が頷いた。少し乱れた黒髪が、白い首筋にかかっている。ゆるくふんわりと髪をまとめていたのは、日中の伊夜も同じだったが、髪の色が違うせいか、随分と印象が異なる。伊夜が昼間の太陽のようだとすると、静玖は夜の月のような印象を与える。声も水のような静けさだ。
「じゃあ、また」
「……ええ」
こうして静玖が中に入り、扉を閉めるのを永良は見守っていた。
その後、細く長く吐息してから、自分の家へと向かう。
そして鍵を開けて中に入ってから、ポツリと呟いた。
「美人だったな」
あまり人の美醜を気にする方でない永良だったが、それだけ静玖は印象的だった。
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