悪役の教室

猫宮乾

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―― 本編 ――

【第三話】一時間目は粒輝論

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 出欠確認が行われた後、今日の一時間目はそのまま担任の戸瀬拡とせひろむ先生が担当だったため、すぐに授業が始まった。戸瀬先生の担当は、粒輝りゅうき粒輝論である。

 新卒採用だったそうで、今年で教職について三年目の二十五歳の若い先生で、永良も隆史も嫌いではない。ただお世辞にも授業はうまくないので、正直眠くなる。

 粒輝論というのは、正義の味方を正義の味方たらしめる、個人が持つ特異能力――粒輝力に関する授業だ。正義の味方(及び悪役)は、粒輝力をもとに、粒輝域というフィールドを生み出す事が出来る。これを粒輝造成という。これさえ出来れば、正義の味方システムに登録可能となる。理由は、これが出来ないと、正義の味方の必須アイテムである〝武器〟を召喚出来ないからだ。粒輝域の中でのみ武器の召喚――即ち喚具化かんぐかが可能となる。己の生まれ持った力から一つ、メインとなる武器と、そしてその都度の〝運〟によりサブとなる武器を、正義の味方(及び悪役)は、召喚可能となる。喚具化される武器は、メインとサブともに、〝手に持てるもの〟という制約がある。永良であれば、メイン武器は短剣だ。最近サブの武器を召喚した際に出てきたのは、フライパンの蓋だった。

 ちなみに粒輝域には、人類は二人までしか入れない粒輝短域と、複数人で入る事が出来る粒輝長域がある。この内部で死に至るような怪我をすると、粒識消滅りゅうしきしょうめつという現象が起きる。これはその場から、青い菱形の粒子になって消滅する事だが、強制的に現実へ戻す効果と同一であり、域内での負傷や死亡は、現実には影響せず、粒輝域が解除されれば無かった事になる。そういう意味では、この粒輝域は、ある種の〝結界〟ともいえる。ちなみに長短問わず、一時間すると、粒輝域は自動消滅する。だからその間に、異邦神を倒さなければならない。

 簡単に言えば、異邦神の周囲にこの粒輝域を生み出す――粒輝造成する事で、周囲に被害を出さないようにし、その中で自分の生命も守る事が可能な状態で、喚具化した武器で戦うのが、正義の味方だと言える。これらは、人類が人類が異邦神相手に、対抗手段として生み出した能力であり、遺伝する事も確認されている。

 ――と、いう基礎のもと、戸瀬先生は、本日は粒輝長域について語っている。

 永良は痛む首を撫でながら、窓の外を見ていた。季節は初夏だ。まだ梅雨明けはしていない。その時、戸瀬先生の声が少し大きくなった。

「ここは、定期バトルで使うだろうから、よく覚えておけよ」

 正義の味方養成校には、定期試験の代わりに、定期バトルが義務付けられている。授業自体も、午前中が座学、午後が訓練と決まっている。そして学年により、少しずつ上の技能をバトルにおいて披露して、模擬戦をする事になる。クラス無関係で、トーナメント制だ。特に夏休み前の定期バトルは、学園祭も兼ねているので、毎年お祭り騒ぎである。正義の味方(と、稀に悪役)には、スポンサーと呼ばれる支援者や、サポーターと呼ばれる応援者がつく事が多い。スポンサーは全ての学内バトルを、サポーターは抽選により当選すればバトルを観客として、観戦できるのだが、学園祭を兼ねている時だけは、一般市民にもバトル観戦が許可される。

 永良と隆史の【ネコパンチ】には、スポンサーもサポーターもいない。ちなみに永良は、昨年は『リタイアします』といって戦わなかった。定期バトルの意義がよく分からなかったからだ。【ネコパンチ】が結成されたのは、そのすぐ後の事だった。あれからもう一年近く経ったのかと、永良は懐かしい気分になった。

 こうして一時間目は過ぎていった。
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