悪役の教室

猫宮乾

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―― 本編 ――

【第二話】朝

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 ――まだ首が痛い。
 湿布を張った首の後ろを撫でながら、朝食後永良は深々と溜息をついた。
 1Kのこのアパートで、永良は一人暮らしをしている。
 キッチンは二畳で、部屋は六畳だ。
 悪役のバイトの収入で住める、ギリギリの家賃のアパートである。

 元々は、永良はそれなりに裕福な家で育った。だが色々あり、現在は一人暮らしをしている。秋野家の当主であり学園の書類的には保護者である兄とは時折連絡を取るものの、援助は受けていない。それが、一人暮らしをする時の約束だったからだ。すぐに永良は戻ってくるだろうと思っていた様子だが、高等部の二年生である現在まで、一度も帰省すらしていない。ちなみに弟は、その〝色々〟――五年前に起こった『扉閉鎖騒動』の時に亡くなった。他にもあの時には、様々な死者が出たものである。

「貧乏でも今の方がいいけど……さすがに痛いのはなぁ……」

 しかしこれも悪役の定めである。
 再び溜息をついてから、本日も永良は登校する事にした。
 家を出て、アパートの階段を降りていく。

 永良が通っているのは、正義の味方養成校の一つである、聖ユスティーツ学園だ。高等部の二年生で、E組の生徒だ。E組だけ、他のクラスとは異なり、人数が少ない。他は全て二十五人前後なのだが、E組だけ十八名だ。成績不振者や問題児、それこそ悪役として活動している者などが、基本的に集められたクラスといえる。一年時はE組は存在しない。E組は二年次から出来る。

 通学路を歩いていき、校門を通り抜けて、永良は校舎の前に立った。
 今日も一日が始まるのかと思いながら中に入り、真っ直ぐにE組の教室へと向かう。
 そして扉を開けて、自分の席へと向かった。

「おはよう、永良」
「おう」

 声をかけてきたのは、隣の席の隆史だ。【ネコパンチ】としての相方だ。

「昨日も派手にやられてたな」

 隆史の声に、椅子に座りながら永良は頷いた。鞄を置いて、嘆息する。

「たまたま居合わせただけだっていうのに、【メルクリウス】は容赦なさすぎる」
「【メルクリウス】っていうか、槙島が酷いよな。暴力反対だよ、俺は」
「同感。俺も反対だ」

 大きく永良は頷いた。
 なお、正義の味方や悪役の戦闘風景――特に異邦神関係のものは、そこに漂う粒輝情報を観測している、実況系の正義の味方である〝ラグナロク〟という組織が、リアルタイムで様々な媒体に配信している事が多いので、その場にいなくても『活躍』を目にする事は出来る。隆史もまた、その録画を見て、昨日の事を知った形だ。

 永良は、善良な隆史を見て考える。
 自分と同じように悪役のバイトをしているから、という点を除けば、隆史がE組である理由がさっぱり分からない。勿論、永良自身も、自分がE組である理由は、バイト以外には思いつかないが。

 そうこうしている内に、予鈴が鳴った。
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