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―― 第二章 ――
【十九】力の供給方法
しおりを挟む「大体、火のエレメントが万年欠乏状態のバルトと、まぁそれなりに満ちている土地の出自なのに頼りにならないアルと比較されてもな。リオンの民ほど火に恵まれている民はいないし、俺はその長だ」
ジェイクがそう述べると、唇の両端を持ち上げた。まじまじとその表情を見て、僕は考える。火のエレメントは、どうやら神子が供給可能らしく、多分それを伴侶に渡すのが一番の仕事となるのだろうとは分かったが、具体的にはどうするんだろう?
「ねぇジェイク」
「なんだ?」
「僕は火のエレメントを供給可能なんだよね? 不死鳥の力というんだっけ」
「ああ。お前は神子だからな」
「どうやって供給するの?」
素直に僕が尋ねると、ジェイクが目を丸くした。そして僕まで歩み寄ると、じっとこちらを覗き込みながら、僅かに首を傾げた。
「ヨル様から聞いていないのか?」
「伴侶の営みだって言われたけど」
「その通りだ」
「つまり、どういう事?」
「は? 一般的に、伴侶となったら、何をする?」
「そもそも伴侶というのがよく分からないんだけど」
僕が答えると、腰に両手を添え、ジェイクが姿勢を正した。
「とりあえず座れ」
「うん」
促された僕は、ジェイクと共に並んで横長のソファに座した。
「伴侶というのは、即ち恋人同士が結婚した状態だ」
「恋人同士……でもさ、僕と候補者三名の場合は、恋愛っていうより、国王選定の関連なんでしょう?」
「俺はきちんとお前を愛してやる。その用意があるが――まぁ、良い。そうだな。その理解でも構わないだろうな。が、やる事は愛があろうがなかろうが同じだろう? 伴侶となれば」
「具体的には?」
「カナタは過去には恋人がいなかったのか?」
「悪かったな! どうせいないよ!」
思わずムッとして僕が声を上げると、ジェイクが吹き出した。
「俺は別段、どこぞのむっつりが治める領地の神話に出てくるようなユニコーンとは違って、初物を求めたりはしないが――そうか。俺しか知らないとなれば、気分は良いかもしれないな。教え甲斐がある」
「何の話?」
「教えてやろうか?」
「そうさっきからお願いしてるよね?」
不貞腐れながらそう続けると、ジェイクが不意に僕の肩を抱き寄せた。体勢を崩して、僕はジェイク側に倒れこむ。
「な、なに?」
「教えてほしいんだろう?」
「口頭で教えてほしいんだけど、触る必要があるの?」
「あのな。恋人同士は一般的に、キスをしたり体を重ねたりする。これは良いか?」
「っ」
そのくらいの知識は僕にもある。うっかり赤面しそうになってしまった。
「火の叡智紋を持つ神子と体を繋ぐと、火の民の長は力を得る事が出来る」
「え……?」
「つまりカナタとキスをしたり、ヤったりすると、俺達はより強い力を操れるようになる」
「な」
愕然とした僕は、目を見開いた。
「特に火のエレメントが欠乏した状態にある時なんてな、そばにお前がいるだけで、欲しくて欲しくて仕方がなくなるはずなんだよ。その点、常に火のエレメントが満ちている俺は、紳士的に対応できる。余裕がある」
「待ってくれ、それって、たとえば特に欠乏状態にあったバルトは僕とヤりたかったって事なの?」
「――キスの一つもしてやらなかったお前が残酷だと俺は思うぞ」
「そ、そんな事を言われても!」
じわじわと頬が熱くなってきた僕は、思わず両掌で顔を覆った。暫くそうしてから、チラリと指の間からジェイクを見る。すると不意に手首を取られた。
「そんな顔もできるんだな」
「へ?」
「真っ赤だぞ」
「う……」
仕方がない。僕は、下ネタにあまり免疫がない。
「生意気だなと思っていたけど、印象が変わった。カナタは可愛いな」
「やめてくれ!」
「これは落とし甲斐がありそうだ」
「待って、待って、僕はそんな事を言われても困るんだ!」
「おいおい……そこまで照れられると、俺まで照れるだろ……」
ジェイクは僕の肩から手を放し、困ったように笑っていた。その耳がちょっとだけ朱く見えたから、彼もまた本当に照れていたのかもしれない。
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