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―― 第二章 ――
【十八】部屋いっぱいの薔薇
しおりを挟むその後、展望室から見た王都の風景は、暑さの気配を感じさせる初夏で、街中に緑が目立った。暫く僕は、アルの説明を聞きながら、石造りが多い街並みを眺めていた。
「よし、そろそろ昼食だな。帰るか!」
「うん、そうだな。有難う」
お礼を述べた僕は、アルに叡智の間の前まで送ってもらった。
その場にいた騎士が二名、扉を開けてくれたので、僕は単身中へと戻る。
「?」
叡智の間を通り過ぎて私室の前に立つと、そちら側にも立っていた騎士や侍従達が、ちらちらと何か言いたそうに僕を見た。だが声をかけられたわけでもないので、不思議に思いつつも扉に手で触れる。
「!」
そして扉を開けて目を見開いた。むせかえるような薔薇の匂いがしたと思った直後、僕は部屋中を埋め尽くしている薔薇の花束を見た。なんだこれは?
「よぉ」
声の主に視線を向ければ、朝僕が座っていたソファに腰を下ろして、長い膝を組んでいるジェイクの姿があった。
「え、えっと、これは……?」
「お前のためにわざわざ用意させた」
「はぁ……?」
「会いに来てやったぞ、有難く思え」
ニヤリと笑ったジェイクは、金髪を揺らしながら立ち上がった。僕は開けっ放しだった扉を閉めながら、思わず双眸を細くする。
「何か御用ですか?」
「伴侶になる相手と会う事に、理由がいるのか?」
「いや……えっと……」
困惑するほかない。まるで僕と結婚する事が決定しているかのようにジェイクは語る。僕はまだ具体的に考えた事など一度も無い。
「……とりあえず、花。有難うございます」
「嬉しいだろ?」
「……正直に言っていいなら、世話が大変そうだなっていう印象かな」
「侍従にやらせろ。お前は愛でればそれで良いんだ。素直に喜べ。可愛くないな」
「僕は花を贈られて喜ぶ文化の中にはいなかったんで……綺麗だとは思うけど」
一般的に、僕の価値観だと、あまり男同士で花を贈りあうような状況は無かった気がする。それにしても部屋を埋め尽くす、赤やピンクの薔薇は凄い。圧巻だ。そして僕個人は、花が特別嫌いだというわけでもないし、心遣いをしてもらう事自体は決して嫌ではない。
「では何が欲しいんだ? あ?」
「別に、何かが欲しいわけじゃ――」
「何かあれば言え。俺に用意できない物などほとんどない。お前のために、何だって手配させる」
「……」
「それが俺の伴侶になるという事だ。喜べ」
いきなりそんな事を言われても、正直困ってしまう。
「どうやってこの部屋に入ったんですか?」
「どう? 普通にだ」
「別に私物とかがあるわけじゃないけど、ここは一応僕の部屋のはずです」
「――鍵をかけていなかったお前が悪い。それにこの王宮の全ては、すぐに俺のものになる」
自信たっぷりに笑ったジェイクを見て、僕は複雑な気分になった。
「俺はこのイグニスロギアの王となる者だ。まだ分かっていないようだな」
「候補者は三人いるんだよな?」
「……まぁな。だが、俺ほど相応しい者は、他には存在しない」
「具体的には、どんな風に相応しいの?」
「俺の隣にいれば、すぐに分かるはずだ。俺がお前を守ってやる」
抽象的過ぎて、さっぱり分からなかった。
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