異世界転移? いいえ、純正品の神子ですが、塩対応はどうかと思います。

猫宮乾

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―― 第一章 ――

【十三】ベリエの民の長

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「今年で二十歳で、ええと……若輩者だけど、これでもベリエの民を治めてるんだ。アルって呼んでくれ」
「僕も二十三だからそんなに変わらないな。僕の事もカナタと」
「カナタ。仲良くしてくれると嬉しい。まずはその、友達から!」

 両頬を持ち上げたアルを見て、僕は仲良くなれそうな気がした。はっきり言って、一番感じが良い。何かと助けてくれるとはいえ塩対応のバルトも、いきなりキスしようとしたジェイクも、はっきり言って気やすく話せる予感は、今の所しない。

 片手を差し出したアルを見て、僕も手を出す。そして握手をすると、ぶんぶんと勢いよく動かされた。

「この王都フラムは、俺が治めてるベリエ領ガーネット・ローズマリーと、そこのジェイクの治めてる土地の間にあるんだ。前の国王が俺の父上だったから、俺も小さい頃からよく来ていて、フラムの事なら大体何でも知ってる。良かったら案内するぞ?」
「有難う」
「常に初夏で、自然は緑ばっかりだけど、過ごしやすくて俺は好き」

 楽しそうなアルに対して、僕は頷いた。するとジェイクが両目を細くして、ヨル様をじっと見た。

「おい。あれは抜け駆けとは言わないのか?」
「どのみち案内は必要だし、護衛もつけるし、僕も行くなら同行するから別に」

 ヨル様が一刀両断した。ジェイクは辟易したような顔をしている。不満そうだ。だが、すぐに気を取り直したように、唇の片端を持ち上げた。

「そういう事なら、俺も案内を手伝ってやる。護衛がいるんだろ? 俺ほどの適任者はいないだろう」
「出かける時は、声をかけるよ」

 頷いたヨル様を眺めていた僕は、チラリとバルトを見た。護衛はバルト以外もしてくれるという事だろうか。それともバルトも行くのだろうか。漠然とそう考えていると、バルトが一瞬だけ僕を見てから、すぐに視線を逸らした。やはり、感じが悪い。僕は何かしたのだろうか? なんだか嫌われているような気がしてならない。

 そう考えていたら、ヨル様が僕に対して振り返った。その瞳は、バルトに向いている。

「それで最後。改めてとなるけど、サジテールの民の長で、バルト様。三名の中で、最も高威力の星魔術を行使できる、火の魔力の使い手だよ」
「……」

 バルトは何も言わない。代わりに、ジェイクが低い声を出した。

「聞き捨てならないな。俺だってバルトには負けない」
「俺は、ジェイクとバルトには負けてるけど、気合は十分だ!」

 続けたアルは、特に不機嫌になった様子は無い。
 アルは底抜けに明るい性格をしているように思える。



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