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―― 第一章 ――
【十】転移鏡
しおりを挟む食後、僕はヨル様に先導されて部屋から出た。
扉のすぐ外に立っていたバルトは僕を見ると――やはり一歩距離を取った。
「転移の間へ」
ヨル様が告げると、バルトは頷きつつ片目だけを細くして僕を見た。その顔が、嫌そうに思えて、僕はちょっと困った。ただ何か言おうと考える前に、二人が歩き始めたので、僕もあわてて両足を動かす。
トパーズ宮というらしいこの場所は、白い床の上に、金縁で緋色の長い絨毯が敷かれていた。等間隔に、半身半馬の彫像と燭台が並んでいる。窓の外は雪が吹き付けているから、何も見えない。僕は物珍しくて周囲をきょろきょろと見ながら進んだ。
転移の間までは一本道で、その廊下の突き当りに、白亜の扉があった。
正面に立っていた二人の槍を持つ人間が、こちらに気づくと恭しく頭を下げてから、扉を開けた。まずはヨル様が中に入り、続いて促されて僕が進む。最後にバルトが入った。
部屋の中央には、巨大な鏡があった。
「これを通り抜けると、移動先の鏡の前に出るんだよ」
「なるほど。これも星魔術という技術ですか?」
「そうだよ。ただし、一定の魔力を持たなければ使用は出来ない」
「僕にはそれがあるの?」
「ソラノの一族の者は、皆生まれ持っているから心配はいらないよ」
笑顔のヨル様は、僕の袖を掴むと、特に迷う様子もなく、鏡に向かって歩き始めた。そして吸い込まれるように姿が消えていく。動揺しつつも引っ張られる形で、僕も鏡を通過した。表面にぶつかると思った一瞬だけ目を閉じたが、何かに触れた感触すらなくて、瞼の向こうの光の加減が変わった時、ゆっくりと左目をチラリと開けると、既に僕は別の場所に立っていた。
背後を見れば、鏡自体は同じで、そこからバルトが出てきた所だった。
だが、内装が全く異なる場所にいた。
白い床には金色の溝が刻まれていて、幾重にも魔法陣のような模様が描かれている。
見上げた天井は、まるでプラネタリウムのようで、青い色の中に金や銀で星や月、太陽が描かれている。
そこから巨大なシャンデリアがつり下がっていた。室内を見渡し、何より窓の外に雪ではなく初夏に見られるような木の青い葉がある事に気づいた僕は、本当に瞬間的に移動したらしいと悟った。
「ここがイグニスロギアの王都だよ。王宮の転移の間だ。今は、叡智の間――これから、カナタくんが滞在する事になる神子に与えられる場所に、皆が集まっているはずだから、まずはそこに行こう」
ヨル様はそう述べると、小さな手で僕の腕を再度引っ張った。
頷いて歩き出すと、今度はそのまま最後尾をバルトがついてきた。
何度か僕は振り返ったが、目が合うと逸らされた……どうしてだろうか。
「どんな人が集まってるんですか?」
「まず紹介する事になるのは、残りの二つの民族の現在の長だね。バルト様とその二名の、合計三名が、君の伴侶候補だ。選ぶのはカナタくんだし、紹介は早い方が良いでしょう?」
「伴侶……それって絶対に誰かと結婚しないとダメなの?」
「ダメだね。こればっかりは、神子の義務だよ」
転移の間を出て、こちらは銀縁に紺色の細長い絨毯の上を進みながら、僕はヨル様とそんな話をした。その後階段を下り、暫く長い廊下を歩いた後、ヨル様が立ち止まったので、僕も歩みを止めた。正面には、僕の腹部の痣によく似た――不死鳥の紋章が記された扉があった。
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