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―― 第一章 ――
【九】朝食
しおりを挟む手伝ってもらいながら着替えた僕は、首元のリボンタイに触れた。人生でこんな服を身に纏った記憶は一度も無い。
その後隣室へと案内されて、僕はそこに並んでいる食事を見た。
白い陶器の中に、ミネストローネらしき豆とパスタのスープが入っていた。
メインはそのスープのようで、味も僕が知る限りミネストローネとしか言いようがなかった。僕の正面には、ヨル様が座っている。椅子が高いので、足が床についていない。
「サジテールの民の主食は、乾燥させた豆とパスタなんだよ。この寒い土地でも何とか育つ魔法植物が、豆と小麦なんだよ。ただ小麦はあまり育たないから、この土地でとれたものは少ないんだけどね」
「そうなんですか」
他にはこちらも僕の認識だと、スクランブルエッグと呼べる卵があった。塩味だった。他には、レタスとツナのサラダがある。食生活は、あまり元々いた世界と変わらないようだ。
「美味しい。良かった」
「大切な神子だからね、君は。それに、ここはサジテールの民の宮殿だから、それなりの食事が出てくるよ」
個人的にはファミレスの朝食セットの方が美味しいと僕は思ったが、それは言わない事にした。僕は好き嫌いがない。大体なんでも食べられる。養護施設にいた頃から、食べられる事に感謝するようにとしつけられた結果かもしれない。
「食事をしたら、イグニスロギアの王都に移動するよ。そこに王宮がある。今後は、そこに滞在する事になる」
「王宮……」
「そこで、伴侶となる国王陛下の選出に立ち会ってもらう事になる。安心して。各民の宮殿から王宮までは、星魔力を用いた転移鏡という移動用の魔術で移動できるから、外の大雪の中を歩く必要はない」
この部屋には窓がある為、僕はチラリとそちらを見た。確かに窓全体に雪が吹き付けていて、大吹雪だと分かる。僕はあまり雪が降らない土地で育ったので、見ているだけでも寒く感じてしまう。
「それに王宮までは、バルト様が護衛をしてくれるし、その後も国王候補だから暫くは滞在してくれる」
「護衛が必要なの?」
「染者は、箱庭の世界にはめったな事では行けないけれど、こちらの星庭の世界には定期的に忍び込んでくるからね。念のためだよ」
少し遠くを見るような顔をした後、ヨル様が僕を安心させるように微笑した。
頷いてから、僕はスプーンを動かした。
「今も部屋の外には、バルト様がいるし」
「え? そうなのか?」
「そうだよ」
「何で中に入ってこないの?」
「ああ、トパーズ宮を暫く空ける事になるから、配下の者に仕事の指示を出しているんだよ」
「あ、そういう理由か」
それを聞いて、僕は思わず安心した。避けられているのかと思ったのだが、気のせいなのかもしれない。あまり気にしすぎは良くないだろう。
「バルト様の事が気になるの?」
「そりゃあ、助けてくれたし、護衛までしてくれて、この食事も服も手配してくれてるんだろう? 気にならない方が無理じゃない?」
端的に言えば、良い人だ。そう考えて、僕は一人何度か頷いた。
「カナタくんは良い子だね。さすがは僕の孫だ」
「育てられた記憶一切ありませんけどね!」
「僕だって苦渋の決断だったんだよ。兎に角、君を失うわけにはいかなかったんだ」
ヨル様がわざとらしく嘆くような顔をした。僕は今もまだ、この少年が己の祖父だとは信じられないので、曖昧に笑うしか出来ない。
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