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―― 第一章 ――
【六】神子の仕事
しおりを挟む「――まぁ、そんなわけで、今後は神子としての仕事を全うしてもらう事になるんだよね」
咳払いをしてから、ヨル様が両頬を持ち上げた。
表情は豊かだが、僕はこの少年の外見をした自称祖父が少し怖くなってしまった。
相変わらず無表情の上、全然口を開かないバルトもまた冷たく感じるが、まだマシに思える。
「神子って何をするんですか?」
「火の叡智紋を持つ神子は、神である不死鳥に代わって、イグニスロギアの国王に火のエレメントを供給する事になる」
「どうやって供給すれば良いんですか?」
「一言で伝えるとするならば、国王の伴侶となって、その営みの中でとなる」
「?」
全然伝わってこない。伴侶の営みとは、一体なんだろうか。
「ただ、現在、王位は空席だから、逆に言えば、今後カナタくんが結婚した相手が、このイグニスロギアの国王となる。神子との神聖な婚姻をした者は、より火属性の星魔力が強くなる。闇庭から迫りくる染者を排除する為にも、これは必要な事なんだ」
「つまり僕は誰かと結婚したら良いと?」
「うん。誰かというか、基本的に、候補者は三名しかいないけどね」
「はぁ?」
「星庭の世界の火の国、イグニスロギア王国には、三民族が暮らしているんだ。そのそれぞれの長の内一名が、国王となるのが決まりなんだよ」
「なるほど……?」
恋愛結婚ではないらしい。彼女もいないし、初恋すらまだの僕だ。別にこだわりはないが、ちょっと寂しさは感じる。
「イグニスロギアの三民族は、ベリエの民、リオンの民、サジテールの民。こちらのバルト様は、その中のサジテールの民の長だ」
そういえば、最初に会った時も、『長』だと話していた。しかし改めて思い出して、僕は率直に首を捻った。
「ん? 僕は各民族の、長の一人と結婚するのが仕事なんですよね?」
「そうだよ」
「それで、バルトは長?」
「うんうん」
「男ですよね? あの、僕も男なんですけど?」
ひきつった顔で僕が笑うと、ヨル様が大きく首を傾げた。
「箱庭の世界とは理が違うという事は伝えたよね?」
「え? ええ」
「あちらでは、動物と同じように雌雄があって、女性という存在が子を産むんでしょう?」
「はい」
僕の受けた性教育が間違っていない限り、そのはずだ。
「でもこちらの世界では、子は、星の力で生まれてくる」
「は?」
「よって、箱庭の世界でいう所の、『男』――即ち、僕達と同じ身体構造の者しか存在していないよ。この星庭の世界には、どこにも女性は存在しない。無論、イグニスロギアでもそれは同じだ」
「な」
呆気に取られて、僕は目を見開いた。
「じゃ、じゃあそれって、僕は男の人と結婚するって事? 真面目に?」
「そうなるね」
「例えば、そこに立っているバルトとかと?」
「うん」
ヨル様は大きく二度頷いた。僕はそれを見て取ってから、思わずバルトを凝視した。確かにちょっと目を惹くイケメンではあるが、僕にとっては想定外だった。
目が合うと、バルトは腕を組み、静かに吐息した。
「別に無理に俺と結婚しろという話ではない」
それを聞き、狼狽えながら僕は頷く。ちょっと心の準備が上手く出来ない。
同性愛に偏見があるわけではないが、そもそも恋愛経験がゼロの僕にとっては、何もかもがとても高いハードルに思えてきた……。
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