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―― 序章 ――
【三】空間の歪み
しおりを挟む「あの、貴方は?」
「バルト=サジテールと言う。サジテールの民の長だ」
青年の胸元の服をギュッと握り、僕は横抱きにされたままで、小さく頷いた。槍はいつの間にか消えている。不審者達はまだ追いかけて来ないので、武器は不要なのだろうか。それともいつでも取り出せるのだろうか。謎だ。
しかし平均的な日本人体型の僕を抱えて走っているというのに、バルトという青年の足は早い。だが進行方向は、林の奥だ。この先には何もない。古来より迷いの山と呼ばれる、神隠し伝承があるような、大自然に通じているだけだ。
……僕の養父母も、この山に登って帰ってこなかった。
今度は遭難の危機に身震いしかかった時、僕は不意に光に気が付いた。驚いて顔を向ければ、ある大樹の正面に、時空の割れ目とでも表現するしかないような、歪みが出来ていた。金色で縁取られた空間が、歪んで裂けていて、その向こうには、煌めくような星々が見える。
「バルト様!」
そこに一人の少年が立っていた。小学校高学年から中学校一年生くらいに見える、二次性徴前の子供だ。この時間帯に、山の中にいるなんて、僕よりも保護するべき対象にしか思えない。ただこの少年は、手に飴色の杖を持っていた。先端が巨大な渦を巻いている、木製に見える杖だ。まるで御伽噺の魔法使いが持っていそうだ。
「ヨル様、まだ『染者』と穢れが残っている。先に保護と退避を」
「任せて」
僕を地に下ろしながら、素早くバルトと少年が言葉を交わした。
呆然と見守っていると、今度は小さな手で、僕は袖を掴まれた。
「行くよ」
「行くってどこに?」
「星庭の世界に」
何を言っているのかさっぱり分からない。しかしその時、再び後ろから怖気の走る感覚が近づいてきた為、背後を振り返れば、フード姿の連中が見えた。僕と少年を庇うように、いつの間にか再び出現した銀色の槍を構えて、バルトは眼を鋭くしている。
「行け」
「……」
「早く」
強く言われて、僕はおずおずと頷いた。そして僕の手を強引に引く少年に誘われて、星が向こうに見える宙の歪みに飛び込んだ。
目を瞑って通り抜ける時、何かブワリと膜を突き破るような感触がした。
その後まるで無重力の空間に放り出されたかのように、僕の体が浮かんだ。
薄っすらと瞼を開けると、僕の体は星空に浮かんでいた。
直後――眩い光が周囲に溢れた為、僕はまた双眸を閉じた。唐突に落下する感覚がして、息を詰める。その後の事は、よく覚えていない。僕は一度意識を手放したらしい。
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