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―― 第五章:閑話 ――
【一】うり二つ
しおりを挟む冬が終わり、また季節が廻った。
人員が二名になってしまった一が仮に、班目廣瀬の弟、班目鷹瀬が配属されてきたのは、四月の終わりの事だった。その履歴書をモニターで見た時から、そういえば双子の弟がいると話していたなと、理性では梓藤はそう考えつつ、実際に会うのが少しばかり緊張した。
「初めまして、班目鷹瀬です」
迎えに行かせた西園寺が伴ってきた班目を見た瞬間、想像以上にうり二つで、息を呑んだ梓藤は硬直した。思わず目を見開いてしまう。脳裏に廣瀬の頭部が過ったが、それを必死で打ち消した。
「宜しく頼む。主任の梓藤冬親だ」
「宜しくお願いします。兄からよく話を聞いていたので、お会いできて光栄です」
班目の声に、梓藤が短く息を呑む。
――そうか、廣瀬は自分の話をしていたのか。
一時、そんな風に感傷的な気分になった。
「席は、俺の隣に座ってくれ」
最初は西園寺の隣にしようと思っていたはずなのだが、梓藤はそうはしなかった。というのは、二人きりだと今まで以上に、西園寺を何かとこき使ってしまったので、それはよくないと思ったからだ……少なくとも意識的には。
「はい」
素直に従い、班目が梓藤の隣の席についた。
至近距離で目視すると、見れば見るほどそっくりで、梓藤の胸が、ドクンドクンと煩くなる。
――そんな梓藤を無表情で西園寺は一瞥していたが、梓藤はそれに気がつかなかった。
それから三日。
「班目」
「はい」
「なにか分からないことはあるか?」
「渡米していた頃に排除銃の扱いは学んでいますので、特に武器に関しては問題ありません」
「そうか」
それから五日。
「班目」
「はい」
「その……お昼でも一緒にどうだ?」
「そうですね」
それから十日。
「班目、今日の帰りに飲みにでもいくか?」
「行きたいです」
それから、それから。
梓藤と班目の距離は、どんどん近づいていく。オフィスでも二人で話している事が多い。勿論それは業務内容の説明も兼ねているのだが、日増しに雑談が増えてきた。
梓藤が会議などでいない日は、気さくな人柄の班目は西園寺に話しかける。
今もそうだ。
「西園寺さん」
「はい」
無表情の西園寺が顔を向ける。理知的でどこか冷たい印象を与える瞳を班目に向けた西園寺は、班目の言葉を待つ。
「この統計ソフトの関数が分からなくて」
モニターをチラリと視線で示した班目に対し、頷いて西園寺が立ち上がる。
そして普段梓藤が座っている席につくと、隣から覗きこんでやり方を教えた。
「ありがとうございます」
「いいえ」
西園寺がそう言った時、梓藤が戻ってきた。梓藤は近い距離に座っている二人を見ると、一瞬苛立つような顔をした。それが西園寺には見て取れた。自分が席を奪ったせいだろうかと思い、すぐに立ち上がって自席へと戻る。
そして前を向いて、西園寺は自分の仕事を始めた。
梓藤が歩いてくる。
それから何も言わずに自分の席につくと、班目を見た。
「調子はどうだ?」
「今、西園寺さんに教えて頂いて」
「あ、いや……そうじゃなく。昨日、風邪気味だと話してただろ」
「ああ、全然平気です。ありがとうございます」
――第一報を告げる電話の音が鳴り響いたのは、その時のことだった。
「そうか、分かった」
応対した梓藤が電話を切る。
「班目、待っていてくれ。ここで待機していてくれ」
「……でも、僕もそろそろ」
「いい。第一今日は風邪気味なんだろう?」
「それは、その……」
困ったように笑う班目と、真剣な眼差しの梓藤。
そんな二人を眺めていた西園寺が立ち上がった。
「俺一人で行きましょうか?」
そう言って西園寺は、梓藤に貰った時計をチラリと見る。
「いいや、俺もいく」
梓藤はきっぱりとそう答えると、班目に再び待機を告げて、西園寺の横に立つ。
「行くぞ」
「はい」
こうして本日も、マスク退治に二人で向かう事となった。
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