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―― 第三章:異能と親子 ――

【二十四】休暇の取得

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 翌日は、よく晴れていた。
 本部に向かった坂崎は、荷物を置いてから、その足で梓藤の元へと向かった。

「梓藤、明後日有休を取ってもいいか?」
「ん? ああ、それは定められた権利だから、待機という形になるにしろ、書類さえだしてもらえれば――……ただ、珍しいな、坂崎さん」

 梓藤は坂崎に視線を向けると、小さく首を傾げた。理由は簡単で、ここに配属されてから、過去に一度も、坂崎が休暇願を出した姿を見たことが無かったからだ。

「書類に記載欄があるから、問題ないと考えて聞くけど、何かあったのか?」

 すると苦笑した坂崎が小さく頷いた。

「妻の葬儀なんだ」

 さすがに梓藤も息を呑み、表情を強ばらせた。静間が驚いて向き直り、西園寺も唖然として視線を向けている。寧ろこの場で、苦笑とはいえ笑っているのは、坂崎本人だけだった。

「そう暗くならないでくれ、長くないのは分かってたんだ。俺は平気だ」

 坂崎の奇妙なほどに明るい声に、そんなはずがないと感じた静間は見ていられなくなり、顔を背ける。笑顔が逆に痛々しく思えた。梓藤は、こういう時にかける言葉を見いだせず、ただじっと坂崎を見ている事しかできない。すると、小さく西園寺が頭を下げた。

「お悔やみ申し上げます」

 その声を聞いて、やっと梓藤も適切な言葉を思い出した。

「本当に残念です。お悔やみ申し上げます。あっ……と、坂崎さん、花輪などの手配は――」
「不要だよ。ひっそりとした家族葬だからな。地味にする。目立つのは逆に止めてくれ」
「そ、そうだ! 雪洞贈ります。今日中にでも! あと電報も!」

 静間の声に、小さく坂崎が吹き出した。

「それは俺が、喪中の人間に送ると喜ばれるセットとしてお前に教えてやったものだよな?」
「はい! 邪魔にならず、仏壇を華やかにし! 葬儀で司会が読むものが少ない際に――」
「だからいらねぇよ。大丈夫だから」

 クスクスと坂崎が笑っている。静間も無理に笑おうとしたのだが、その表情は引きつった。それから坂崎は深く吐息すると、両頬を持ち上げる。

「さ、今日は葬儀じゃない、暗くなるなよ。時間を取らせて悪かったな。仕事、仕事!」

 パンパンと坂崎が手を叩いたので、それぞれが己のパソコンに向き直った。
 それでもこの日はチラチラと、三人は坂崎を見てしまった。恐らく坂崎はそれに気づいていたのだろうが、誰とも視線を合わせず、昼食時にはふらりと出かけ、コンビニの弁当を持って戻ってきては、また仕事をしていた。

 夕暮れになり、定時をまわった時、梓藤が声をかけた。

「早めに帰った方がいいんじゃないのか?」

 すると坂崎が漸く顔を上げて首を振った。

「休みを取る間の分の仕事を片付けてるだけだ」
「……そうか。だが、休みの日は働かなくていいんだから、そんな仕事は存在しないはずだ」
「おいおい梓藤。それ、毎日言ってくれないか? この時間に」
「た、確かに残業は多いな」
「おう」

 坂崎が冗談めかして笑う。それ以上は何もかける言葉が思いつかず、梓藤は自分の席へと戻った。

 ――そして、その次の日。
 帰り際、やはり坂崎が残ろうとしていた時だった。

「あの」

 西園寺が珍しく自発的に、坂崎へと声をかけた。梓藤と静間がそれとなくそちらを見る。

「ん?」
「これ……香典です」
「あ……気を遣ってくれなくてよかったのに」

 苦笑した坂崎が、素直にそれを受け取る。すると西園寺が改めて頭を下げた。
 坂崎と西園寺が二人で話し始めたのを見つつ、静間がパソコンで梓藤にメッセージを送る。

『思いつかなかったよ! どうしよう!?』
『俺もだ……そのような考えが無かった……』

 二人がそうやりとりしていた時、西園寺がよく通る声で言った。

「俺達三人分ですので」

 珍しく大きな声だった。そんな場合では無いのだが、梓藤と静間は肩から力が抜けた。西園寺の気遣いに救われた思いだった。

「悪いな、本当に。気を遣わせて」
「いえ……」
「梓藤ー! 静間ー! 用意しろとは言わないが、そこで見え見えのやりとりをして西園寺を困らせるくらいなら堂々としてろ」

 全て気づいている様子の、坂崎の呆れたような笑みを含んだ声音に、ビクリとしてから、梓藤と静間は引きつった笑顔を返した。西園寺は失敗したという顔をしていた。



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