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―― 第二章:爆弾事件 ――

【十五】人員の補充

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 秋が訪れた。窓の外には色づいた楓や銀杏が見える。もう少しすれば黄色い葉が歩道を埋め尽くすだろう。楓は景観のために人工的に育てられたものだが、銀杏の方は古くからそこにある大樹だという。

 その木々の葉がまだ秋の気配に染まる直前、即ち二週間ほど前に、警備部特殊捜査局第一係には、人員の補充があった。二名が欠けた第一係ではあるが、警備部は全体的に、現在人手不足とのことで、今回は一名のみの補充だった。

 梓藤は、新人の西園寺色さいおんじしきを何気なく眺めた。
 日本人の髪の色は、完全なる黒ではないという説もあるのだが、西園寺の場合は鴉の濡れ羽色と評するのが相応しい、艶やかな漆黒だ。そこに、こちらも梓藤同様遺伝の法則を無視したかのような、赤茶色の瞳をしており、目の形は切れ長だ。よく通った鼻筋をしており唇は薄い。非常に長身で、彼がこの第一係では一番背が高い人間となった。引き締まった体躯をしているようで、スーツの上からでもそれは見て取ることが出来る。率直に言えば、整った顔立ちの男前だ。尤も梓藤を含め、同性の美醜にこだわる人間は、この第一係には存在しない。

 現在椅子に腰を下ろし、大型のパソコンのモニターへと視線を向けている西園寺は、自衛隊から警察に出向中、その実力から警備部にぜひ残って欲しいと懇願され、今ここにいる実力派のエリートだ。

「色ちゃん、お菓子食べない?」

 静間がごくいつも通りに声をかける。明るく気さくな態度で、西園寺が配属されてから、なにかと構っている。恐らくは西園寺が早くなれるようにと言う配慮だ。

「勤務中は、食べないことにしているので」

 至極真面目な回答を、西園寺が返す。

「硬い、硬い! ちょっとくらいの息抜きは、逆に大切なんだよ? あんまり根を詰めると、倒れちゃうからね」

 静間の声に、チラリと西園寺が顔を向ける。そしてチョコレートが棒形のクッキーにかかった品が差し出されているのを見て、大きく吐息してから、銀の袋から一本取って口へと運んだ。西園寺は非常に従順で、先輩の言葉は絶対的に守るようだった。

 ポキリと音がし、端正な唇がお菓子を食む。

「美味しいでしょ?」
「……はい」

 表情筋が動く様子もなく、西園寺は無表情を貫いたままで頷いた。
 西園寺は実力も確かだ。着任早々の任務では、梓藤と坂崎が西園寺を伴ったのだが、迷う様子もなく、排除銃を駆使して、それこそ梓藤と坂崎よりも多くのマスクを無言で倒していた。その際も、表情が変わることはなかった。

 もう二人一組での行動も可能だろうと、梓藤は判断している。
 現在では人手が足りず、これまで待機係であることの多かった静間もまた現場に出ているため、二班を作れる。現在の本部待機と電話応対は、専用のAIを内蔵したドローン頼りだ。

 そんなことを考えながら、梓藤は現在本部に待機している。
 するとマスクの出現を告げる第一報が入った。新人だからと率先して電話を取ろうとした西園寺を諫め、詳細を聞きたいから主任である己が取ると伝えたのは、彼が配属されてすぐのことだ。

 こうして本日も、マスク退治に赴くこととなった。今日は坂崎は非番なので、三人で外へと赴くこととなった。

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